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静かな
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「あっつー」
「本当ですね。アイスが食べたい」
夏休み中だが2人して忘れ物をしていて、わざわざこの暑い中大学へ取りに行くことになった。
今はその帰り道で、駅までの道のりはこの暑い夏には地獄と呼べるほどだった。
隣の善さんはもちろんと言うように汗をかくことはなく、それより普段より青白い顔が気になった
「善さん、少し涼しいところに行きましょう」
「え?何で?」
あと少しで駅に着くのに、としれっと言うけれどそんな顔色で言われても従うはずがない
駅よりもここから近くに図書館があったので入って直ぐのロビーに腰を下ろす
「顔色悪すぎです。少し横になってください」
頬に少し触れると火照っていて、汗をかいていないはずの体はおかしいくらいに暑かった
きっと、熱中症になりかけている
「えー?大丈夫だよ。ただ暑いだけだから」
「隠そうとしてるんなら今のうちに止めておいた方がいいですよ。俺、善さんのことなら手に取るように分かりますから」
そう言うと困ったように笑ってから、ロビーのソファーに横になった
すると一瞬辛そうに息を吐いた後また穏やかに微笑まれる
「困ったな、爽太君には嘘をつけないみたいだね。」
「嘘つかなくていいじゃないですか」
鞄からノートを取り出して善さんの火照った体を冷やすように扇ぐ
その度にサラサラとした黒髪が揺れて光を反射する
「嘘をつかないと生きてけなくなるよ」
腕を顔の上で組んでしまっているため善さんの顔は見れなかった
でもきっと、隠された表情は
「…なんて顔、してるんですか」
「あはは、酷いなぁ」
泣き笑い、その言葉がしっくりくる
泣いてはいないけれど今から泣いてしまいそうな
そしてそれを隠すように貼り付けられた笑顔
「でも、爽太君には正直でいたい」
善さんの言葉は真っ直ぐだ。
態度は隠されてしまう事もあるけれど、口から出る言葉はいつもストン、と胸に入り込む
そしていつも、積もりに積もって溢れそうになるけれど容量を増やしては、善さんの言葉を一つも残さず食べるように
「そーだと良いんですけどねー」
「信じてないでしょ。いいよ、これから分かってもらうから」
顔色の悪かったのが良くなってきて、ゆっくりと起き上がると扇いでいたノートを取って中身を見た
そして、間に挟まった赤い字が並んだプリントをヒラヒラと揺らした
取っている講義に一つだけ、夏休み中に一回テストがある
その範囲の練習問題のプリントが、それだ。
「…もう直ぐテストだけどこれ、大丈夫なの?」
「駄目です…」
すると、俺の手を引いて今度はテーブルの上にそのノートを置いて椅子に座る
ぼーっとしている俺に穏やかに微笑みかける
「色々してくれたお礼。勉強教えさせて」
「えっ、良いんですか?」
「いーから。隣に来なさい」
ぽんぽん、と隣の椅子を叩いてから鞄の中から筆記用具とノートの何も書かれていないページを出した
善さんは教えてくれる気満々だけど、さっきまで体調が悪かったのに大丈夫なのだろうか
「でも、さっきまでダウンしてたんですから今日はもう帰って寝た方が…」
「大丈夫だよ。爽太君と居た方が元気になるし、もう良くなったし、ね?良いでしょ?」
…まぁ、熱中症というまでの症状では無かったし何より本人がそうした方が気が楽になるのなら
「…よろしくお願いします」
「うん、任してください」
こうして善さんに勉強を教えてもらうことになった
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