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「とりあえず、着替えようか」
落ち着いた頃に千紘さんに、そう声を掛けられる
隣にいた翔は辛そうに善さんを見つめて頭を撫でようと手を伸ばそうとしたが
苦しそうに笑ってから引っ込めた
「善、歩ける?」
「全然ヘーキ」
無理して笑おうとする姿に胸が締め付けられる
全然平気と言っても片方の足は引きずられていて、目に分かるくらい赤黒く腫れているからきっと大丈夫なんかじゃない
握られている手はいつもより強く握られていて、それが痛みに耐えているというのだと分かった
「……足、痛いんですよね?」
「ちょっとだけだよ。走るのは無理そうだけど歩くのは本当に大丈夫だから心配しないで」
ね?と言い聞かせるように言われてしまえば頷くだけだ
確かに善さんの言う通り、歩くのは支障が無いくらいの怪我なのかもしれない。
それに善さんはきっとあれだけの事があった後だ、人に注目されるのが怖いのもあってそう言うのだろう
ここで俺が善さんを背負ってでもしたら、それこそまた同じように辛い思いをさせてしまうかもしれない
そう思うと、今はなるべく遅く、負担をかけないよう歩くのが一番に思えた
「……っ」
「善さん、一回止まる?」
すれ違ってぶつかりそうになった男の人に、握り合っていた手の力が強まって微かに息を飲んだ
けれど、善さんはふるふると首を横に振って歩き出した
「爽太君の手は、魔法みたいだね。
触れてるだけで怖くなくなる」
ふわり、笑って言うその顔は無理しているという感じではなかった
千紘さんも、翔もそれに少しは安堵したのかふっ、と肩の力が抜けた
「あ、てか爽太と善さんって付き合ってたんだね。おめでとう」
翔はサラリとその言葉を発して、隣の千紘さんはすかさず、馬鹿っ、と焦ったように背中を叩いた
「いって!何なんですか、もー。
ただ良かったなーと思ったから言っただけなのに」
「良かったって何が?」
良かったって、俺翔に相談してないよな?
何がそう思わせるのだろう。そう単純に気になって聞けば隣の善さんも同じ気持ちだったらしい
「えー?だって爽太と善さんって絶対に両想いだと思ってたからさ。
じれったすぎて早く付き合えって念送ってたもん」
「……なっ、知ってたの?」
普段ちゃらんぽらんしてて餓鬼くさいところもあるくせに時々誰よりも、 鋭い
「そんなの見たら分かるよ。
だって俺、二人のこと大好きだし」
にかっ、と笑ってそう言う翔に善さんは俺の手を強く握った
それは無意識の行動だったのだろう
善さんの目が湿度を保ち始めてそれを零さないようにした仕草にしか思えなかった
「わわっ、善さん泣かないで!ごめん!」
「ぷっ…翔何やってんの?」
千紘さんは優しく笑って、翔の頭を撫でる
翔が居てくれて良かった。
純粋で、真っ直ぐで、
そんな翔に俺は何度も何度も救われてきた
「善さん…大丈夫ですか?」
俯いている善さんの顔を覗き込むように翔は腰を屈める
するとその顔を上げて、翔に笑顔を向けた
「うん。俺も、翔君のこと大好き」
「ちょ、それは爽太が怒る…いや、めちゃめちゃ嬉しいですけど!」
「自分は言っていいのに何で善さんからは駄目なんだよ」
本当に馬鹿、というかなんというか
そんな翔についつい笑ってしまう
そしていつのまにかみんな笑っていて
ふざける翔を千紘さんが突っ込んで
それを見て俺は笑って
善さんはそんなやりとりを見てくすくすと笑う
早く善さんの傷がこんな風に皆んなと笑い合ったり、騒いだり、遊んだりして
だんだんとその記憶を風化させるように
気がつかないうちに癒えてほしい
だからもう、これ以上は傷つかないでほしいと強く願った
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