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「え、何が?なんでもないよ」
そうして本当になんでもないように笑う善さんはまた、歩き出す
でも今度は前を歩かずに並んだままだ
「…善さん、もう一度言いますけど、言いたくない事なら無理して言わなくて良いですしこの話はこれで終わりにします。
………でも、それが俺に対する遠慮なら言ってください。もしそうだと分かったら怒りますよ」
「……爽太君を怒らせるのは俺くらい、なのかな」
その言葉はどういう意味で受け取ればいいのだろう。
「いや、怒ってくれるんだよね。俺のために」
ふわり微笑んだ善さんは、俺の頭を撫でた
その手つきがとても優しくて悲しくもなんともないのに何故だか胸に染み込んだ
「善さ……」
「母の命日なんだ」
……母の、命日?
以前話したお母さんの事だろう、でもその命日が
「10月16日」
こんな話はドラマや漫画でしか見たことがない
そう思うくらいに残酷で、辛い現実だった
「…以前話したでしょう?止める母を引き離して友達の家に泊まりに行ったって。母は誕生日を祝ってくれようとしたのに、それなのに……
あはは……本当に最低だよね。俺は」
全然、笑えないっつーの
何で辛いのに無理して笑うんだろう。
それを見るたびに胸が握り潰されるように痛む
「…無理して笑わないでください。泣きたいんなら泣いて、笑いたいときに笑って…それでいいのに」
「爽太君は、優しいね」
善さんは嘲笑気味にそう呟く
どうしたってこの人の痛みは拭えない
それなら
「善さん…過去はもう変えられません。善さんがどんなに悔やんでも、それはもう過去です。
だから未来の話をしましょう。
きっと、善さんのお母さんも自分のことで苦しんで欲しくないはずです」
「………っ、何で、そんな事が分かるの」
善さんに初めて咎められるような視線を向けられる
何も知らないくせに、そう目で言われているようだった。
けれどそれは、それだけ善さんが深く傷ついてきた証拠だ
「だって、善さんの口からお母さんの悪いところが全然出てこないから。
それは善さんが愛されていた、今も愛されている事を知ってるからじゃないんですか?」
「………っ」
善さんの目から涙が飛び出して、人目も気にせずに腕の中で包み込む
その体は相変わらず華奢で、腕の中にいるのに何処かへ消えてしまいそうなくらい儚い
「親が子供を憎む事なんて、特に善さんのお母さんなら尚のこと有り得ません。
だから……善さんは、善さんを許してあげて」
「…ごめんなさい………っ……ごめん」
その言葉はきっと、善さんのお母さんに向けてだ
空から聞いているかのよう、突然雨が降り出す
周りの人は雨の中男同士が抱き合っているのを好奇の目、咎める目、面白がる目、心配する目
色々な視線が向けられているけれどそんな事が気にならないくらい
腕の中のこの人を離したくなかった
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