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. 善side
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「………はぁ」
ほんっと何やってんだ、俺は。
たかが誕生日を聞かれたくらいであんな風になるなんて迷惑以外の何者でもない
こんな自分に愛想を尽かさないでいてくれるのは、きっと爽太君くらいだろう
家に来るかと心配そうにする爽太君に大丈夫だとなかば押し切るような形で帰って来てしまった
あの子は本当にすごい子だ。
俺はポーカーフェイだの、分かりにくいだのと周りに言われる事が多かったし自分自身そう思っていた
いや、今も思っている。
だけど爽太君は小さな変化にも直ぐに気が付いてくれて、それでいつも心を暖かくしてくれる
「わ………」
携帯の受信音がしたので開いてみると爽太君からのメッセージが入っていた
『善さん、もう家着きました?
何かあれば連絡してくださいね』
短いけど優しさで溢れてる、爽太君らしい文章だ
『うん、ありがとう』
それだけを打ってベットに横になる
なんとなく天井を見るといつもより近く感じて、手を伸ばしてみる
だけど当たり前のごとく届くはずもなく、手は宙をかいた
母の命日まであと10日。
お墓参りは母が亡くなってから一度も行く事ができていない
自分が殺したと同然だ。
そう思って出かけようとする体は重く動かなくなった
爽太君のあの言葉はもしかしたら何気ない言葉なのかもしれないけど、この数年の出来事が全て見透かされているようで
『善さんは、善さんを許してあげて』
同情でも、偽善でもない
心からの言葉は冷たい心にスッと溶け込んだ
「………お母さん」
久しぶりに口にした
当時の暖かい思い出も、辛い思い出も
全てが鮮明に蘇ってくる
「…………っ、ぅ………く」
あの手を振り払ったとき、母さんはどんな気持ちで
一体どんな顔で俺を見ていたのだろう
振り返りもせずに玄関を出た後
どれだけ悲しませてしまったのだろう
今思い返せば返すほど、取り留めのない後悔が襲う
だからこそ、今年こそちゃんと会いに行こう。
痛みも、悲しみも、全部抱えたまま
幸せだった思い出も忘れずに
もう、見ないふりはしたくない
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