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. 善side
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「善さん、大丈夫?やっぱり帰る?」
足は何故だか動かないし、声だって上手に出せない
この場所に戻ってきただけでこんな風になるなんて自分でも思っても見なかった
「ううん、大丈夫だよ」
「………でも」
爽太君の心配そうに瞳が俺に向けられる
きっと、逆の立場なら俺もそうなっただろう
だけど今は俺のわがままを聞いてほしい
「ちゃんと、楽しかった時間もあってね……それを悲しい時間と一緒にしたくないんだ。
今は無理でもいつかは爽太君と懐かしみながら笑い合って話せるように、なりたいから」
だから、大丈夫だよ。そう付け加えると爽太君は分かりました、とだけ呟いて
握る手の力を強くした
「ありがとう。我儘聞いてくれて」
「はい?善さんの我儘のベクトル低く過ぎです」
呆れたように言う爽太君に、俺も真似をして呆れたように言葉を返す
「ベクトルって大きさだけじゃなくて方向も指すからその使い方間違ってるよ」
「………知識をひけらかさないでください」
ほら、爽太君がいれば大丈夫だ。
まだまだ大丈夫。
さっきまで息がつまるように苦しかったのに、もう笑えてる
***
「ここ、ですか?」
「……………うん」
墓の前に立って、そのまま呆然とする
部屋で無残な姿で生涯を終えた母が今目の前にいるなんて
現実なのにまるで、夢の中にいるみたいで
買ってきた花を添えて、線香を焚いた
そして手を合わせて目を閉じれば微かに手の中に温もりを感じる
心の中で話しかけるたび、出るのは罪の意識の謝罪だけで
ずっと楽しかった話もしようと思っていたのに
やっぱりごめんなさい、しか出てこない
閉じたままの瞳からは涙が伝う
目を開けると視界がぼやけて目の前にあるはずのお墓が見えなかった
手を伸ばすとちゃんと触れられる距離にあるのに、どうしてこんなにも遠いのだろう
「ごめん、ちょっとここに居てもいい?」
「はい。勿論。……中で待ってますからゆっくりしてください」
俺が気を使わないように中で待っていると言ってくれたのだろう
心配そうにこの場から去っていく爽太君に申し訳ない気持ちを抱えつつも
何故だかこの場から離れられなかった
また、お墓に目を移すと母の元の名字が彫ってあって
見るたび優しい笑顔と辛そうな顔が浮かんだ。
「お母さ…………」
「……おい、お前なんで……っ」
お前というその呼び方と
いつか前に嫌という程聞いた威圧的な声に
体が震えた
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