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―――
無言の藤堂さんの後ろをついて玄関を出た。
此処へ来た時と同じ服、あの日に戻るような感覚。
でもそれは錯覚で、いよいよ殺されるんだ。
どっちみち近いうちに死ぬ運命だった。
それが少し早くなっただけ。
痛くなく苦しくなく殺してくれるかな?
此処に来たのは不本意だけど、此処では美味しいものも食べさせてもらえたし俺には十分幸せだったのかもしれない。
でも、どこまでもツイてない人生だった。
迎えに来た車に乗り込み、しばらく車に揺られ着いたのは。
服屋さんや雑貨屋さんが並ぶビル。
思わず出てしまった「なんで?!」に冷たい視線が向いた。
こんな所で俺を殺すなんてあり得ない…よね?こんな人目につく場所でなんて。
じゃあここで何をするんだろうか。わざわざ俺を連れてきてまですることって何?
「こだわり、好みはあるか?」
え?なんのこと?
なんのことを聞かれているのか全然見当もつかなくて首を傾げる。
殺され方の好み?
そりゃ…「痛くなくて苦しくない方が」これに尽きるよね。
何故か呆れたような、まるで変な物を見るようなその目はなんなのか。
「そうそうないな。お前はMだろう?」
「はっ?!違うっ!!」
いきなりなんなんだ。こんな公衆の面前でMだなんだって下ネタ発言とか。
それよりも…痛くなく苦しくない死に方がないのも問題で。
「お前、勘違いしてないか?見たところMっぽいが。Lでは大きすぎるだろう?その服はお前の好みなのか?」
そう聞かれてやっと、服の好みとサイズを聞かれていたことを知って、恥ずかしいのなんのって。
今、身につけているのは黒のパンツにグレーのパーカー。どっちも流行りなんてない無難で当たり障りのないもの。
それは好きで買ったんじゃない。
地味でいい。ただ平凡に生きたいが故に目立たない色を選んだ結果だ。
左右に首を振ると、スタスタと歩き始めてしまう。それを小走りで追いかけ、着いたのは高級そうなお店。
「こいつに合う服をいくつか見繕ってくれ」
そう言った途端聞こえた数名の「かしこまりました」という声。
すぐに数着の服が用意され、試着室へと案内される。
こんな高そうな服俺には似合わない、と思うのに次々に着せ替えられ、その全てを買うことになってしまった。
しかもその荷物を後ろからついてきていたお付きの人が持ってくれていて俺は手ぶらのまま。
「あ、あの…、自分で持ちますっ…」
言った途端に隣から感じる鋭い視線。それでも俺はこの視線に負けるわけにはいかない。
だってこんな高い服を買ってもらった上に他人に持たせるなんて、俺には耐えられない。
さっきのお店のお会計の時、チラッと見た数字は10万を優に越えていた。それどころか20に届きそうな数字だった。
そんな大金を返すことは出来ない。職もない貧乏人にお金なんてない。
そもそも俺は藤堂さんのペットなわけだし、もう人ですらない…のかも。
「何故そんなに反抗する」
反抗?違う。藤堂さんが偉い人なのは分かる。でも俺は藤堂さんの言う通りペットで、自分の荷物を他人に持たせて堂々と歩ける人間ではない。
「荷物持ちなら俺が」
それがペットってもんでしょ?何も出来ないからせめてそれくらいは。
「ふざけるな!お前は俺の言うことを聞いていればいい。豊島、車を回せ」
え…、怒ってる?豊島さんは返事をしてお付きの人に車のキーを渡した後、溜め息をついていて。
チラリと見た藤堂さんはやっぱり無表情。機嫌を損ねてしまったようだ。
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