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「なんでしょう…?」
「えっと、さっきお釣り…百円渡し忘れて…」
風見さんの手には、ちょんと、百円が一枚乗って俺に差し出されていた。
律儀なもんだ。いや、レシートと計算が合わないとそっちが困るのかもしれないが。
俺は得意の営業スマイルをする気力も無くて、「ああ」と息を吐くように呟いた。
「わざわざありがとうございます」
「いえ…」
風見さんの手から百円を受け取ると、一瞬指が触れ、風見さんの手が少し震えたのがわかった。
なぜだろう?触れるのが嫌なのか?いや、俺の手が冷たかったのかも。
とりあえず百円をポケットに適当に突っ込んで、もう一度風見さんに頭を下げる。
「じゃあ…」
「あっ、あの!!」
もう一度振り向くと、風見さんは固く口を結び、その拳は小さく震えていた。見た目はかなり男前なのに、その仕草が似合わなくて少し笑える。
「はい?」
「……電話、番号…教えてください」
「……は?」
電話番号。電話番号とはなんだったか。
ああそうだ。電話番号だ。
「…何で?」
「……じ、じゃあメールアドレスを…」
「いや…だから何で君に教えなきゃなんないの?個人情報だから、それ」
これは、新手の詐欺か?深夜に毎日コンビニ来るような寂しいリーマンだから引っかかるだろうと思ったんだろ?バカチンが、四大卒の無駄に高いプライド舐めんなよ。
じっ、と風見さんを睨むように見つめると、風見さんはなぜか照れたように顔をそらした。
「好き…なんです……」
「は?」
「……貴方のこと、ずっと、好きで……その、すみません」
「え?」
「本当にすみません!」
バッ、と野球部並みに90度直角で頭を下げる風見さんを、信じられない思いで見つめた。信じられるわけがない。
いや、もし風見さんが女子高生だったとしよう。アリだ。むしろウェルカム。
いや、もし風見さんが女子大生だったとしよう。アリだ。むしろウェルカムウェイ。
しかし、この目の前にいる現実の風見さんは、間違いなく男性、男子、青年だ。
「突然こんなこと言って困りますよね!あの、これ俺の電話番号とメールアドレスです!送ってください!待ってます!」
「え、いや……」
グシャッ、と手に押し付けられ潰れた紙を半ば強制的に受け取ると、風見さんはもう一度頭を下げてコンビニへ戻って行った。
その耳まで真っ赤な風見さんの横顔を思い出して、ふと、こっちまで恥ずかしくなって慌てて辺りを見回したりした。
うん、誰もいない、良かった。
「……いや、良くない良くない」
なにこれ、どうすればいいの?男の連絡先貰っても全く嬉しくない。てか字キレイだな風見さん。
…この紙、ずっと持ってたのかな。俺に渡すために。ポケットに入れたりしてたのかな、すっげえシワシワだし、なんか変に暖かいし。
「どうしよ……」
他人の個人情報をむやみに貰うわけにはいかない。例えそれが、高校生の純粋な感情からだとしても。
俺はその紙を百円と同じポケットにしまうと、ドキドキと騒がしい胸を抑えて自宅へ向かった。とりあえず、ショートケーキを食べてから考えよう。
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