アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
83-高谷広side
-
「だから、やっぱり別れよう」
きっぱりとそう言った俺に、希の声はまた震えた。
「──え、なん、で」
心と暮らして分かった。
今まで自分がどれほどいい加減な付き合いをしてきたのか。
今までの相手だって可愛いと思ったから付き合ってきたし、ちゃんと好きだった。けれど、こんなに本気で大切にしたいと思ったのは、心が初めてだった。幸せにしたい。笑顔が見られるなら、どんなことだってしてやりたい。
心のことを好きになって、本当に大切な存在を知ってしまったのだ。
知ってしまったどころで──叶うことは決してないけれど。
「何で!?」
「ごめん」
スーツにすがりついて食い下がる希に、まさか生徒に恋をしたなんて言えるはずもなく、俺は謝り続けるしかなかった。
「だって……だって、あの子いなくなったでしょ?私たちを邪魔するものは、なくなったでしょ?」
「え」
(今、なんて……?)
「それなのに、どうして──っ!」
気付けば俺は、ガッと希の肩を掴んでいた。
「どういうこと?」
「……っ」
自分でも驚くほどの低い声に、希が肩を震わせる。
「どういうことだって、聞いてるんだ」
「え……」
「心に会ったのか?」
「だ、だって、私……本当に広君のこと好きで……だから……だから私……広君の未来を邪魔しないでって……」
「なっ」
(まさか、それで出てったのか……?)
「いつ?」
「え……」
「いつ会ったんだって」
「こ、この前の日曜日……夕方……」
(日曜の、夕方……)
心がいきなり出って行った日と、タイミングがピッタリだ。
じゃあ、叔父さんが一緒に暮らそうって言ったのも嘘だということになる。
「くそ……っ」
希の肩から手を離して、自分の頭をかきむしる。
なんで気付いてやれなかった。心は誰よりも優しい心の持ち主だって知ってたはずなのに。人のために自分を押し殺すような子だって分かってたはずなのに。
「ひ、広君……」
「悪い。帰って欲しい」
「ご、ごめんなさい……私……」
「帰って」
「……っ」
なるべく乱暴な言い方にならないよう気をつけたつもりだったが、希を萎縮させるには十分だったようで、希はビクリと肩を震わせた。目には薄っすらと涙が溜まっている。
あまりに怯えきった希にさすがに心が痛んで、俺は頭を下げた。元はと言えば、中途半端なことをした俺が悪い。希が心にしたことは許せないが、彼女だけを責めるのは門違いだ。
「……ごめん。俺、本当に心が大切なんだ。あの子を大事にしたい。だから、本当にごめん」
「ただの……従兄弟なのに……?」
「……ああ。ただの従兄弟でも、大切にしたい」
「そっ……か……。わ、わかった。さよならっ……」
震える声でそう言った希はそそくさと帰って行き、俺もすぐにアパートを後にした。
(早く、心を迎えに行かなきゃ)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
84 / 340