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「も~、本当にごめんなさいね。あの子ったら……」
ジャガイモの皮を剥きながら唸る叔母さんに、俺は人参を切りながら苦笑いを返す。
「いえ、本当のことなので……」
あの後、放心状態になった俺と怒った叔母さんを置いて、蓮君は再び部屋に戻ってしまった。
(仲良くなりたかったんだけどな……)
もしかして既に嫌われてる?
そうネガティブになりかけたけど、すぐに思い直した。蓮君は無愛想って言ってたし、あれが通常運転なのかも。俺は本当に人より小さいし、思わず本音が漏れてしまっても不思議じゃない……と思う。
俺は最近、こう思えるくらいのポジティブさを手に入れた。
(全部、先生のおかげ)
先生がいつもそばに居て、褒めてくれるから。少しくらい自分に自信持っても良いんじゃないかなって思える。
バイト先の御坂さんや尾上さんにも、最近笑顔が増えたよねって言われるほど、俺は幸せいっぱいだ。
その感謝を刻むように、心を込めて人参を切る。美味しく作って、先生に喜んでもらいたいから。先生の笑顔を見ることが、俺にとって何よりも幸せ。
「先生、カレー好きだったんですね」
叔母さんと作っているのはカレー。先生は中辛がお好みらしい。
なんだか可愛い、なんて思ってしまい、思わずほっぺが緩む。
「そうそう。どんなに手の込んだもの作っても、結局はコレね~」
叔母さんは子育て時代を思い出したのか、楽しげに先生の昔話をしてくれた。
中高と剣道部だったこととか、良いお兄ちゃんだったこととか、後は……モテモテだったこととか。
そんな話を聞いているうちに、カレーは後は煮込むだけになった。叔母さんは洗った手を布巾で拭きながら、ニヤリといたずらな顔をする。
「後でアルバム見る?」
「……っ!見たいです……!」
思わず食い気味で返事をしてしまった。
(先生の子ども時代、すごく見たい)
今であんなに格好良いのだから、きっとすごく可愛い。まだ見てないのに、きゅうっと高鳴る胸を押さえると、背後から声が聞こえた。
「見せなくて良いよ」
俺の大好きな穏やかな声。
「あら」
「あ、先生っ……おかえりなさいっ」
先生は微笑んで、俺の頭に手を置いた。そのままスルリと優しく撫でてくれる。
「ただいま。いきなり、びっくりしたろ」
「い、いえっ。その……叔母さんと料理作るの、楽しかったです」
「そっか」
恥ずかしくなって目を伏せるも、先生の手は依然、俺を撫で続けた。
(うう、駄目……キス、して欲しくなっちゃう)
唇にではなく、いつものように、おでこや頭に欲しい。あの柔らかな感触から、じわーっと幸せが広がるのは、甘い中毒性があった。
ここがどこだか忘れて、甘えた視線を先生に向けそうになったとき──
「あらあら、ずいぶん仲良しさんね」
「……っ!あっ、ごめんなさい!」
現実に引き戻され、訳もわからず謝る俺の背中を、先生がポンポンと撫でる。先生はニコニコしてる叔母さんの方を向いて、小さくため息を漏らした。
「母さん……頼むから、変なメール寄越すのやめて」
「あら、別に良いじゃないの」
「変なメール?」
先生が見せてくれた画面には『心君のことナンパしちゃった♡返して欲しくば、お腹を空かせて家に来ること!』と書いてあった。
(叔母さん、お茶目な人だなぁ……)
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