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マンダリン・オレンジ
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審査員が各テーブルを回り終わり、
いよいよ俺達のテーブルに来る
英語はできるけれどフランス語は
自信がない俺に変わってエリックが
審査員に説明をすることになっている
『こちらの作品のお名前は?』
厳しい目付きの女の人がそうエリックに
訪ねると、エリックは相変わらず
かっこいい、あの微笑みを浮かべ
『マンダリン・ショートです。
日本のショートケーキとフランスの
マンダリンオレンジを掛け合わせました。』
審査員の目にはオレンジ色のクリームと
真っ白なクリームの上にグラサージュされた
オレンジが映る。
『オレンジ色のクリーム…?』
『新鮮なマンダリンオレンジを
使うことによってマンダリンオレンジの
爽やかな香りと色味を再現することができます。』
『マンダリンオレンジ…
どうして数ある食材の中で
マンダリンオレンジなの?』
『それは…中を見ればわかります』
エリックが優しく頷き、
予定通りケーキをゆっくりと切る。すると…
『まぁ…!』
『素晴らしい…』
中からはゼラチンで固めた
マンダリンオレンジソースと
マンダリンオレンジがこれでもかと
言うほど出てくる
『マンダリンオレンジは…日本語で
「橘」というそうです。オレンジより
酸味が少なく、甘みが強いマンダリンオレンジで、
彼…日本からの留学生、シュンの、
これからのフランス本校での勉学への
期待を表しました。』
『異文化ではありますが、名前は同じ。
その気持ちを夏の残り香りがする今日の日に
ゼラチンと一緒に思いごと閉じ込めました。』
フランス語で喋るエリックと審査員。
何を話しているのかはわからないけれど、
エリックなら、大丈夫だろう
『それでは、ご試食ください』
審査員に、配られるケーキ
香りを楽しむ者、キラキラしたゼリーを
眺める者、様々だった。
『まぁ…爽やかな香り』
『細かく、丁寧なスポンジだ…!』
口々に何かを言う審査員を満足気に見渡すと、
グイッと俺の腰を引き寄せ、
エリックの隣に並ばされる
『最後に…マンダリン・ショートは
日本から爽やかな夏の残り香りを
私に運んできたくれた彼の発案です。
ありがとうございました。』
拍手が起こり、訳がわからずエリックの
袖を引っ張り、小さく耳打ちする。
「何言ったんだ」
「シュン、フランス語でありがとうは何て言う?」
「め、めるしー…?」
「セ・ビアン。
こういうときはそれを皆さんに言えばいいんだよ」
改めて審査員の方に向き、
エリックと一緒にお辞儀をしながらつたない
フランス語で「メルシー」と言う。
俺の鼻にはまだ、マンダリンオレンジの
爽やかな香りが残っていた。
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