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秀才と天才
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その人は俺を中庭に面した
廊下まで連れてくると、クルリと振り返った。
「さて…美人さん、お名前を聞こうカナ。」
名前を聞かれたから、言おうと思い
口を開いたら、俺の唇はその人の
人差し指によって押さえられた
「もちろん知ってるよ。シュン・スガワラ。
…自分から名乗るなんてナンセンス。」
クスリと楽しそうに笑うそいつ。
自分から聞いてきたくせに…
古風な喋り方や振る舞い、
不思議な雰囲気に飲まれそうになる。
それでも、なんとか用件を思いだし、
10cm高い所にあるそいつの深緑の目を見る
「さっきの、」
「ん?」
「秀才くんって、なんだよ」
その人は腕を組んで後ろの壁に寄りかかり、
挑戦的な目で俺を見てきた。
目が言っている
知りたい?と、
「…エリック・レオナルド・リホーウェン。
製菓学科第3学年での成績は常にトップ。
あぁ、きっと天才的なものなんだろう!
…でも本当はどうだろう?キミはどう思う?」
「…アンタ何言ってんの?」
まるでひどい芝居をしているピエロみたいに
悲しげに微笑むそいつ。
「本物の神から授かりし能力を持つ
キミにはわからないかなぁ?
【天才高校生ショコラティエ】くん?」
嫌味ったらしく言う目の前の男
一番言われたくない言葉を言われ、
ソイツに言い難い怒りを覚える
「うざい。まわりくどい。はっきり言えよ。」
ソイツの顔から今まであったふざけた笑顔が
消えた。真剣な表情になり、
俺を軽く睨み付ける。
「キミさ、エリックは天才だと思ってたでしょ?
アイツはそんなのじゃない。才能あるやつが
ゴロゴロいるこの世界で周りに
引けをとらないよう、人の倍以上
努力してるんだよね。」
「…だから?」
「授業が終わっても1番最後まで残って
勉強して、暇があれば実習して腕を磨く。」
「かわいそうだよね。ホント。いくら頑張っても」
顔を歪め、そいつはとどめの一言を言う
「秀才は天才にはなれないのに」
どこかで聞いたことがあるセリフ
頭に鉛が落とされたような感覚になる。
エリックのあの知識も、技術も、
誰からも頼りにされる姿も全部エリックの
今までの努力の結晶なんだ。
「…知らなかった」
「エリックはキミのことを過大評価しているよ。
聞いてたけど、本当に大切なんだね。
どんな聖人君主かと思ったら…ただ綺麗で
美しいだけの日本人。」
クイッと顎を上に持ち上げられ、
上を向かされる。
「単刀直入に言うとしよう。シュン・スガワラ。
キミみたいな奴はエリックにふさわしくない。
彼に関わらないでくれ。」
スッと離れ、勝ち誇ったように俺を見ながら、
ストンと腰を下ろしたソイツ。
散々好きなように言われ、
プツンッと俺の中で何かが切れた音がした。
ダンッッッ!
ソイツの頭の横ギリギリの壁を足で蹴る
ビクッとなったソイツ
「アイツが天才だろうが秀才だろうが
ボンクラだろうがどうでもいい。」
「キミ…お兄さんの話聞い「でも、お前が俺を
ふさわしいかどうか決める権利はない。
それを決めめるのは俺だ。」
ほとんど無表情なのが自分でもわかる。
「封筒返せ。」
パシッとソイツの手に握られた封筒を奪う。
クルリとソイツに背を向け歩きだすと、
後ろから聞こえるか聞こえないかくらいの
小さな声がした。
「ふーん…キミ、後悔するよ…」
「…。」
後悔なんて、もう、してる。
2年前のあの日からずっと。
だから今度は、後悔したくないんだ。
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