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エリックの夢
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あら、と口許を覆うエリックのお母さんと
眉間がひくついているエリックのお父さん。
そして俺の問いかけさえ無視したエリックは、
自分に語りかけるようにこう言った。
「父さん、母さん…俺は、大学には
行くかどうかまだ答えをだしていないんだ。
でも、俺の夢に大学が必要な時は…
もう一度考えたい。」
エリックの…夢?
聞いたこと、なかった。
チラリとエリックを見ても何を
考えているかわからない。
でも、エリックの手は握った所から
わたるくらい、震えていた。
「俺は、まだ夢が中途半端なまま
イギリスには帰れない。投げ出したくない。
だから…もう少し、自由でいることを
許してほしいんだ。」
「それは…「いいじゃない。」
「母さん!」
切羽詰まったエリックの父さんの声を
していてもエリックのお母さんは、
それを無視した。
この人…案外強いのかもしれない。
「でも、条件があるわ。
その夢とやらを教えてちょうだい?」
エリックの、夢…
「俺の…夢は、
パティスリ・ワールド・アワードで、
優勝すること。」
「シュンと、一緒に」
そう言ってキュッとより強く握られた手。
恥ずかしさなのか嬉しさなのか
俺は少しだけ顔が火照るのを感じた。
「…素敵ね…ねぇ、シュンちゃん?」
「は、はい」
「あなたとエリックは…
その、恋人同士なのかしたら?」
俺に振られた難しい、質問。
難しくないのか?
でも、この質問は俺にとっては
どんなチョコレートを作るより難しいことだ。
「恋人…では、ありません。」
そう言うとピクリと動くエリック。
「あら…じゃあ、あなたにとって…
エリックってなに?」
俺達は、恋人ではない。
友達でも、親友でもない。
「エリックは俺の、シェールです。
俺の大切な……相棒です」
パッと俺の顔を見るエリック。
そんな俺達を見て、ニコリとエリックの
お母さんは微笑んだ。
「じゃあ…条件があるわ。
そのワールド・パティスリ・アワードで
優勝するのならば、エリック、この後の
人生思いっきり好きなように生きなさい。」
「母さん!勝手に決め「お黙りなさい」
ピシャリと奥さんに叱られ、
シュンと萎れるエリックのお父さん
そんなの、お構いなしに
エリックのお母さんは続けた。
「それで…もし、勝てなかったら…
エリックは大学にいき、リホーウェン家を継ぐ。
どうかしらシュンちゃん?」
俺…?
けれど
そんなの答えは、決まってる。
「優勝しますよ。だって…」
「俺とエリックだから」
「Très bien」ニコリと微笑み、
パチパチと小さく拍手したエリックのお母さん。
それとは対照的にソファに深く
沈み混むエリックのお父さん。
お皿のアイスみたいに
それぞれの思いが溶けることができた。
暖かい空気がその場を包む。
そんな中、エリックのお父さんは
小さく聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で
こう言った。
「おいしかったよ…ありがとうショコラティエ」
俺は、ただ、頷くことしかできなかった。
でも、それでいい。
作る者にとって1番嬉しい
おいしかったと聞けた喜びを
噛み締めた
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