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大好きな、イギリス
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ウェストミンスターブリッジまで来た時には
日が西に沈みかけていて、街は赤と紫の世界に
包まれていた。
ロンドンの晴天は綺麗な黄昏時を生み出す。
テムズ川とビッグ・ベン。そしてここからは
ロンドン・アイを同時に眺められるスポットだ。
「綺麗だな」
手すりに前のめりに寄りかかり
ポツリと呟いたシュン。
「今日は、ありがとう…すげー楽しかった」
ニコリと微笑んだシュン。その、
人を安心させる笑顔に、口が自然と動いていた。
「今日行った、バッキンガム宮殿も大英博物館も
サウスバンクのウィンターマーケットも、
ここも…全部、俺がロンドンで大好きな場所なんだ。
俺の、子どもの頃の思い出が詰まってる。」
その全部に、ある人がいる。
「だからかな…シュンを、連れてきたかったんだ。
俺の大好きな場所を、シュンにも
大好きになってほしくて。」
けれど、シュンが隣にいると
見慣れた場所でもすべてが違って見えた。
一分一秒が早くて、すごく、楽しい時間だった。
遠くの空で、もうすぐ日が沈みそうだ。
「本当に…最高のクリスマスと誕生日だったよ。
こちらこそ、ありがとうシュン」
俺が、そう言うと同時に消えていった太陽と
俺の頰に伸ばされたシュンの手
驚いて一瞬息を飲んだ
「綺麗だ…すごく。
お前もロンドンも…大好きだよ、俺は。」
フワリと微笑んだシュンの後ろには
決して大きくはないけれど、
綺麗な真っ白な月が浮かんでいた。
太陽が沈んだ後の月…
心臓の鼓動が、早くなる
これで、また無自覚なんだ。本当、本当に…
「夢中にさせるのが上手いよ」
頰にあるシュンの細い指を取り
その手を引き寄せ、少し冷たくなった
シュンの唇にキスをした…
****
「ねぇ、シュン」
「ん…?」
フランスへと戻るユーロスターの中
隣で微睡み始めた大好きな人に声を掛ける
「次は…夏においでよ。
冬のイギリスも良いけど、俺は夏も好きなんだ」
祖国、イギリスの夏
大陸とは隔てられた不思議な空気
御伽噺のような、美しい国
幼い頃の思い出が詰まった…
俺はそんなイギリスが大好きだ。
「夏なぁ…絶対綺麗だよな…」
目を瞑りながら独り言の様にそう言って
小さく微笑んだ彼
「ワールド・パティスリ・アワードが
終わったら…だな。」
「もちろん」俺がそう答えた時には、
彼はもう夢の世界へと落ちていた。
これから、始まる戦い
まずは、2週間後のフランス大会を
勝ち抜かなくてはいけない
次にイギリスに来れるのは、本当に
全てが終わった、夏だろう
そしたら…次はシュンに俺の思い出話をしよう。
兄さんとの、思い出が詰まったイギリスでの話を。
…その時、俺はどんな顔をしているんだろう
まだ、想像もつかない、
そう遠くない未来
でも、なんだか大丈夫な気がした
チームスガワラだから。
誇るべき、[天才]がいるから。
「信じてるよ、シュン」
チラリと見えたシュンの首には十字架のネックレスが
控えめに、それでもはっきりと輝いていた。
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