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今度は、逃がさない
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この前のフランス大会はブレスレットをしなかった。
言われてみれば初めてブレスレットをしないで
大きな大会に挑んだけど…対して支障はなかった
むしろ、この前は好調だった
「…チームスガワラだから?
それとももっと別の何か特別なものがあったから?」
見透かしたような、微笑み
…どうして、リーはそんなことを聞くんだ?
「そう…かもしれないけど、わからない。
作るときは何も考えてないから。」
「ふぅん?じゃあ何か特別なものが出来た。とか?」
特別な、もの…
ふと、あいつの顔が浮かんだ。
太陽みたいな笑顔と優しさで包んでくれて
「シュン」っていつも名前を呼んでくれる…あいつ。
「うん…まぁ、そんな感じ。」
あいつを想像してクスリと思わず笑みがこぼれる
その次の瞬間
カタンと静かにテーブルの上に置かれた
ブレスレット。ハッとして顔を上げると
そこにはもう優しい瞳のリーはいなかった。
酷く、冷たい赤い目に捕らえられる
「…チームにも友にも恵まれてるって?
日本にいる時とは大違いだね、菅原春」
「な、にが…」
日本にいる時
その言葉に血液が凍りつくような、
ヒヤリとした感触が全身を駆け巡る
「あぁ、ごめんごめん。春…俺は君のことは
なんでも知ってるよ。もちろん、日本でのことも。
各大会の入賞歴、何をしてきたか…」
「は…?」
「今の俺は…製菓界では知らない人はいないし
入ってこない情報もないからね。
[天才ショコラティエ]ちゃん?」
手を組み、ニコリと微笑むリー
頭の思考回路が停止する
誰だ
こいつは誰だ?
冷たく微笑む
目の前に座るこの人は、
リーじゃない
必死にそう言い聞かせた
「特別な存在ねぇ…嬉しそうな顔しちゃってさぁ」
心臓が早くなる
テーブルの上に置かれた俺の手に
リーの手が重なった
「ねぇ可愛い可愛い春…教えてあげようか?
俺が何を知っているか。」
何を、知ってるんだ…?
俺が口を開きかけた
その瞬間
〜♪
リーの携帯が鳴り、リーは溜息をついて電話に出た。
リーは電話の相手に短くなにかを言うと
すぐに切り、また俺に向き直った
「ごめんね春。この後会議があるんだ。
もう、行かなきゃ」
よかった。
そう思うくらい早くこの場を去りたかった。
「今度また、ゆっくりお茶しようよ」
「え…」
ニコニコとしていても、リーの目は冷たく、
感情が読み取れなかった。
「これ、俺の携帯とメアド。明後日までに
電話してこないとダメだよ?…じゃないと俺、
春の大切な人に言っちゃうかも。」
「…日本での、アノコト」
そう言いながら立ち上がり、コートを着て
俺の後ろに立ち、名刺の裏側を見せて
渡してくるリー。
この人は
エリックとのことを
知ってる…?
サァと顔から血が抜けるのがわかる。
リーはニコリと微笑むと、耳元でこう囁いた
「おかえり…春。今度は、逃がさないから」
そして俺の手首に
レザーのブレスレットをまた、つけ
リーは俺の手の甲に軽くキスをし、店を出て行った
_____今度は
逃がさないから
リーの言葉がグルグルと周り
呆然と、しばらくその場から動けなかった
誰かがドアを開く瞬間、雨が降っている音が
聞こえた気がした
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