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俺は、変われない…
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最悪だ
廊下は午後のテストを終えた生徒でごった返し
それがさらに俺のイライラを加速させる
左手にはクシャクシャになった、つい数分前に
渡された成績速表が握られている
【S+++】
最高得点だ。けれど
パティシエコース全学年合わせた人数のうち10位
もう一度紙に目を落とし、驚く
10位?
今までこんなことなかった
いつも、1番だったから。
何がいけなかった?
何が悪かったんだ?
いや、そもそもの話…
「シュン!!」
突然耳に届いた聞き慣れた声
そして今はあまり聞きたくなかった声
俺はチラリと首だけ後ろをみると、生徒の間を
縫うようにしてエリックが走って来くるの確認して
俺は構わず先に進んだ
「シュン!ねぇ、待ってってば!」
腹が立つことに足の長さは大分違う。
そのせいで、いとも簡単に追いつかれ
腕を掴まれる
「…何?」
「ちょっと…なんで逃げるの?」
「別に…」
それだけかよ。そう冷たく目で語ると、
腕を振り払いまた、歩き出した
「ねぇ、シュン、待って………シュン!!」
「なんだっつーの…」
さすがに廊下を歩く他の生徒も振り向く
くらいの音量の声で呼び止められると
止まらないわけにはいかない。
エリックは優等生だから、それもプラスして
他の生徒には珍しく写っているだろう
そんなこともおかまいなしに、
当の本人は俺に対峙した
「最近のシュン変だよ?
一体何があったっていう訳?」
「別に、何もない」
「今日のテストだって、どうしたの?」
「は、…テスト?どうもしねーよ」
今日のパティシエ学科実技テストは
『パイ生地』がメインとなっていた。
それを、今更なんだっていうんだよ?
イライラが、沸々と大きくなっている
「シュンなら一位取れたはずでしょ?
どうしてあんな簡単なミスをしたの?」
「は?」
一位取れた
簡単なミス
そんなの、
俺が1番知ってる
「パイ生地が、苦手だったの?」
「…違う、」
「じゃあ、どう「別に、お前に関係ない」
ピリッとした、空気が俺とエリックに流れる
ムッと眉を寄せたエリックは
あまり表に出さない険しい顔をしていた
「俺が、間違えたんだ。あんな簡単な所でって、
笑いたければ笑えばいい。そこで笑ったって
お前の一位は変わんねぇだろうからな」
淡々と出てくる心にもない言葉達は、
一位を取ったエリックへの八つ当たりにしか
聞こえなかった
「なにも、そこま「俺なら一位になれたって?
何そのわかってるような言い方。
それは俺個人の技術?
それとも俺が…[天才ショコラティエ]だから?」
自分は、何をこんなに怒っているのかよく
わからなかった。けれど、言葉が止まらなかった
「シュン、そうじゃなくて!」
不意に伸ばしてきたエリックの腕
それを無造作に払う
「シュ…」
「今、お前と話したくない…」
アクアマリンの瞳が、揺れる
俺は真っ直ぐ見ることができなくて
そらしてしまう
「最近のシュンは…、いつから変わってしまったの?
…いつもと違う、変だよッ!」
さすがにいつも穏やかなエリックも
少し声を荒げ始める
「…俺は変わってない、前からこうだった。
…お前らと一緒にいて、勘違いしてた。
自分も変われるんだ、って。」
独り言のように発した後、
あの人の言っていたことが頭をよぎった…
「お前も、勘違いしてたんだよ。
エリック・レオナルド・リホーウェン。
俺は変われない…変わっちゃいけないんだ」
呆然と立ち尽くすエリックを置き去りに
俺はその場を後にした。
鎖骨に当たるエリックからもらったネックレスの
十字架が、やけに冷たく重く感じた
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