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いい夢を…
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ガチャンッ!
シンクに投げ込まれたボウルが派手な音を立てる
1人の調理室
「はぁ…」
時刻は夜の8時
そろそろ寮に帰らないといけない
ボウルにチラリと目をやる
…チョコレートに申し訳なくなる
綺麗にしてあげられなくて、
美味しくしてあげられなくて。
今日のチョコレートだけじゃない
焼き菓子も、ケーキも、スイーツ全般
何かが違っていた
前とは違う、ちぐはぐな感じ
パズルのピースを合わなくても無理矢理
詰め込んでる感じ
そこに雑念が入ってくるから
余計納得のいかないものになる
雑念の1つ。
さっきエリックに言ったことが、
胸につっかえていた。
前みたいに、アイディアや考えが浮かんでこない。
ただレシピ通りに作っているだけな気がする
こんなこと、今まで一度もなかった
きっと…一時的なものだ
すぐ前みたいに作れるようになる
だから、焦らない
焦ってない
〜♩
携帯が鳴り、画面を確認して画面の名前に息を飲む
震える指でボタンを押し
平静を装う
「…もしもし」
「こんばんは、春。元気にしてた?」
「はぁ…まぁ、普通に」
「そっか。俺の言ったことは覚えてる?」
一昨日、電話で言われた言葉
『魔法はいつか解けるんだよ、春。
シンデレラもそうだったようにね…だから春は
今、魔法にかかってる。
勘違いっていう怖い魔法に。
ねぇ、もう気づきなよ?
いくら今あがいても、もう変えられない。
春は変われないんだよ。』
勘違い
じゃあ、エリックのことも…俺の勘違いだったのか?
そう、思うしかないのか?
そうしないと…また……
また考え込んでしまい、リーに電話越しに
「春?」と名前を呼ばれる
『俺の言いたいこと…わかるよね?
あまり関わらない方が春のためなんだよ』
リーの放つその一言一言に息が
止まりそうになるけれど
この人に焦りを見せてはいけない
本能的にそう思い、ゆっくり息を吐く
「…今はテスト期間だから、他の連中とも
喋る時間はないし、俺も忙しいから
あまり接触はない。」
「本当かなぁ?」
電話越しから聞こえるクスクスとした
楽しそうな笑い声
『まぁ、いいや…今週はテストでしょ?
じゃあ来週は会えるね。来週の日曜
いつもの場所でね、春』
「わかった…」
リーは電話の向こうでクスリと嬉しそうに笑い
Have a sweet dreamと電話を切った
思わずその場にズルズルと座り込む
相変わらず何を考えているのかわからないけれど、
ずっとリーが言っていたことが頭を
グルグルと回っていた
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