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バーチ・ディ・ダーマ
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器具の音や足音、話し声など様々な音が
交差する実習室
黙々と作業を続ける俺とシュン
作業中は余計な事は話さなかったけれど
それでも問題はなかった。
でもどこかシュンの手際が悪いように見えた。
いや、いつも良すぎて今日が人並みに見えるだけかもしれないけど
ふと、作業中に動きが止まり、困った顔をする時があった。その時に次はこれだよね?と聞くと「あぁ、」とか、「うん」と言ってまた作業に戻っていた。
その顔は青白く、今にも倒れそうな気がした
きっと今、シュンは無理をしている
「…ねぇ、シュン、もしかして今
立ってるだけで辛いんじゃない?」
生地をサイコロ状に切る途中のシュンは顔も上げず
「私語は慎めよ。基本だろバカ」
とだけ言って、それ以上は何も話してくれなかった
それでもやっぱり少しフラフラしていて
目の下に隈もある
寝不足なの…?
シュンの顔をジッと眺めながら生地を
両手で丸めてると、シュンが急に顔を上げてきた
「…おい、焼くと多少膨らむから出来上がりの
サイズより小さめに丸めるようにしろよ?
あくまでもひとくちサイズな。」
「あ、うん…」
一瞬だけ
前のシュンが見えた
3週間前の、今みたいにギクシャクする前のシュン
そして今日初めて目があったけれど、
すぐに反らされてしまった。
どうしてだろう
また一つ、コロンとシュンへの
モヤモヤした思いが増える
その後、シュンには珍しく渡されたレシピを見始めた
…え?
珍しくなんかない
始めてだ
初めてシュンが渡されたレシピを見ているのを見た
今まで何も見ずに作っていたのに
どうしてだ…?
シュンはレシピを一通り眺めると短く息を吐き、
また作業を続けた
胸の中に積もるシュンへの疑問
それが、少しずつ少しずつ
俺の中で単純なものから複雑な模型のように
形を変えていった
***
「おぉ…さすが貴方達ですね」
上機嫌で見に来た先生と、気にせず
空いているボールや器具を片付けを始めるシュン
「さぁ、貴方達も名前を紙に書いて前に
持って行きなさい!」
俺はシュンを横目に、先生に促された通り
前のテーブルにバーチ・ディ・ダーマを持っていき、
紙に俺とシュンの名前を書いて他の生徒達同様
出席名簿にチェックも入れた。
後ろからポンっと肩を叩かれ、振り向くとそこには
先生がニコニコと愛想よく笑いながら立っていた。
「あなたのシェールMr.スガワラ、毎日真夜中まで
頑張ってる成果がドンドン現れてますね。
このままの勉強ペースだったら我が校の
卒業証書を受け取れちゃう勢いなんですよ」
「…え?シュンが、ですか?」
始めて聞く内容
卒業証書を受け取るのは3年の単位を
履修しないと無理だ
「えぇ、もちろん貴方も優秀ですが、
彼は…やはり天性のものなんでしょうね。
貴方も鼻が高いでしょう」
そう言うと他の生徒に呼ばれ、
小走りにそちらに向かった先生。
今先生に言われたことを頭の中で整理することで
ようやく、
俺の中のパズルが一つ一つ当てはまっていった
それは、きっと
知らなければいけないことと知ってはいけないことが混ざり合った
決して美しくはない
けれど
少し、『今』のシュンのことがわかってきた
そんな瞬間だった。
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