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距離がありすぎる
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──「…お前らにだけは知られたくなかったな」
初めて見た…あんな穏やかに
悲しそうな顔をした彼を
知らなかった
シュンにそんなことがあったなんて
初めて聞いた、話だ
それは決して綺麗とは程遠い…人間らしい話
残された静かな部屋に、ルイの鼻をすする音だけが聞こえる
「…これ、」
ゼンが何かに気づいたようにシュンが
座っていた椅子の下に屈む。
その手には……あのネックレスが乗っていた
「これ…シュンちゃんのだよね。
……最近取れやすい、って愚痴ってたヤツ」
え…?
最近取れやすいってことは
ずっと、付けていてくれたってこと?
知らなかった
シュンがまだ付けてくれていたことを
てっきり、もう付けてないかと思った
俺は、
知っていることを忘れようとして
知らないことを知ろうとしていた
「…んで、」
ポツリとそう呟き、突然椅子から
立ち上がり俺の方まで大股で歩ってきたルイ
次の瞬間には、ネクタイを掴まれていた
「なんでっ…!エリックっ、
シュンを傷つけたの!?勝手に踏み込むだけ
踏み込んで、その後は!シュンに優しくすれば するほど…シュンは苦しんでたんだよ……
1番側にいたのに、どうしてわからなかったの……」
言葉が、突き刺さった
大粒の涙を零しながら怒るルイ
ここまで怒ったルイは、久しぶりに見た
「他の人にはその接し方で良かったかも
しれない!けれどね、シュンのことは考えたの?
どうしてこうなったのか、どのくらいの距離を
保てばいいのか」
シュンの、こと……?
ギュッとルイの力が強まり、少し苦しくなる
俺は、何もできなかった
「馬鹿!坊ちゃ…ルイ!!やめろ!」
俺とルイを引き離そうとするゼン
…体のどこにも、力が入らない
ルイの言ってることが正しいからだ
「踏み込み方を…間違っちゃダメなんだ…!
エリックのそれは、っ優しさの、暴力なんだよ!!」
優しさの、暴力
そうか…そう、だなんだ……
…誰に対しても、優しくすれば良いと思っていた
笑って、笑って、どんなに腹立つことにも
苛立つことにも目を瞑ってその人の良いところ
しかみない
そうすれば、大抵のことは上手くいく
それは、違ったらしい
「……光が強くなればなるほど影も
濃くなっていくんだよ…どうして気が
つかなかったんだろう……
光の注ぎ方も方法はたくさんあるのに」
力無く座ったルイの啜り泣く声だけがまた聞こえた
……もう、ダメなのかもしれない
ずっと、このままなのかもしれない
そんなの嫌だ
嫌に決まってる
俺には、今……さっきのシュンの
話を考えることができる
チョコレートを作る前にシュンがよく言う言葉
『考えろ、研ぎ澄ませ』
どうすればいい?
俺はどうすれば変えられる?
………答えを、教えて…………
扉の向こうに目を向けても、距離がありすぎて
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