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最後の教え
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───製菓の道は、楽しいかい?
今、迷いなくYesと答えたのならば、
春はまだまだということだよ。
製菓の道はちっとも楽しくなんかない
いつか、そう感じる時がある。
思い通りにいかなくて、何をやってもできなくて、
試行錯誤しても納得できないことがたくさんある。
嫌な大人はいるし、自分の技術や名声が
上がるほど、妬みや嫉妬も多くなる。
かつての仲間でさえ、自分から
離れてしまうかもしれない。
そして、何も作れなくなる時が必ずあるんだよ。
かつての、私がそうだった。
わかってほしい……
春には、そんな風に苦しんで欲しくないんだ。
昔から気づいてはいたんだ。
春、お前には才能があるよ。
製菓の道を志すものなら喉から
手が出るほど欲しいものを
お前は易々と手に入れることができるだろう。
お前はスイーツの神様に愛されるために
生まれてきたのかもしれないね
だからこそなんだ。
もし製菓の道を進んでしまったならば
お前は人一倍傷ついてしまうかもしれない。
そうならないよう、
厨房には入れなかったし、
作らせたり触らせたりしなかった。
あまり製菓と関わってほしくなかったんだ…
けれど、お前のスイーツを見る目は違った。
いつもその目はキラキラと輝いていた。
いつも笑顔だった
いつも楽しそうに私の作業を見ていた
春…お前からスイーツを離すことなど、
できないのかもしれない。
だから、これだけは教えておこう。
頑なにお前の幸せを願った
爺の最期の教えだと思って…心に置いといてほしい。
どんなに辛い時も、悲しい時も、腹が立つ時も…
…何も、作れなくなってしまった時も
忘れてはいけない気持ちがある。
それはね、春『大切な人を思い浮かべること』
一番食べさせてあげたい人、
美味しいと、笑顔にしたい人
その人のことを考えながら作りなさい。
そうすれば……どんな高級な食材にも
負けない素敵な調味料になるのだから。
私のお菓子達の秘密の調味料は、
春、お前の笑顔だよ。
いつもお前の笑顔を思い浮かべながら
作っていたんだ。
今…縁側で干していた布団の上に寝ている春。
今は桜舞う【春】…お前の季節だよ。
桜のように綺麗で、真っ直ぐ、
美しく咲き誇れる人になってほしい
どうか、この手紙を読んでいる私の大事な
大事な春が……幸せでありますように
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