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4《バスの中》
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side 縁下力
全員がバスにのり宮城に向かって出発する
さっきの綾斗への態度を日向に突っ込まれ不機嫌に言い返している影山
早速ヘッドホンを付け目を瞑っている月島
その隣には外を眺めている山口がいる
俺は通路を挟んで隣に居る田中に声をかけた
「んお?なんだよ縁下」
「さっきなんで綾斗の事助けたんだよ。田中別に綾斗の事好きじゃねなかったよな?」
俺の質問に田中は怪訝そうに顔をしかめた
「はぁ?そんなんあいつが困ってたからに決まってるだろ。俺はお前らと違って綾斗の事、チームメイトとして好きだ。そいつが困ってたら助ける」
そしてニッと笑う
「誰かがあいつの味方になってやんねーと、綾斗またバレーボール嫌いになっちまうかもしれないじゃないか。それは困る、まだ、教わりたい事いっぱいあるしな」
今度は深く噛み締めるような顔をし左手を胸の辺りでぐっと握った
「それに俺には潔子さんがいる!!」
「あーはいはい」
おい縁下ッ!なんて騒いでいる田中の声が聞こえたが俺はそれを無視して目を瞑る
この感情はただの嫉妬だ
行動できなかった自分と違い、迷わず行動した田中への嫉妬だ
夏休み前の昼休み、いつものようにみんなで集まり昼食をとり解散したあとの綾斗との会話を俺は思い出した
『田中ってさ、頭は悪いけど馬鹿ではないよな』
『それって矛盾してない?』
別に田中を褒めるために言ったわけでもないその言葉は
多分、綾斗自身の脳内整理をするために発せられた言葉だ
『勉強できるけど、馬鹿なことする奴もいるだろ?田中は勉強すればちゃんと成績出せる奴だよ夕と違って』
『西谷は勉強してもダメなのか』
『夕はあれだよなー。人と生きてるベクトルがもはや違う。けど、性格で得するタイプ』
『あーそれはなんとなく分かる』
『だろー。…のりおっフッフッハッハッ』
西谷の小テストの回答を思い出した綾斗はそれから予鈴が鳴るまでずっと笑っていた
頭は悪いけど馬鹿ではない
それはやり方は下手かもしれないが、誰かを助けるためにどう行動すればいいか分かっている
多分そう言うことだ
じゃぁ俺は?
同じような場所にいたのに行動できなかった俺は
『頭は悪くないけど馬鹿』
その言葉が妙に自分にしっくり来た
side 鵜飼繋心
来た時にはあったはずの華がなくなった
そう俺は感じた
「田所くんなら大丈夫ですよ。なんていっても強い子ですから」
「あぁそうだな」
それを察したのか運転してる先生が俺にそういった
「それとも、鵜飼くんの心配はこちら側ですか?」
先生はバックミラーを越しに車内にいる生徒をみた
綾斗へ芽生え始めたこの感情を先生に悟られまいと俺は餓鬼どもの心配しているように繕った
「まぁ。綾斗にいい所を見せようと躍起になってた奴らもいるからな。その起爆剤がいなくなるってのはな」
「それなら心配要らないんじゃないですかね?」
もう1度先生はミラー越しに車内をみる
その顔は生徒を思いやる教師の顔そのものだ
「2ヵ月後、田所くんに成長した姿で会う為に今より精力的になる気しかしません。だから僕たちも彼らに負けないようにしないといけませんね」
「え?先生?」
驚いて助手席から先生の顔を直視した
いつもと変わらない教師の顔をしている
「あーもちろん。彼が高校を卒業するまでは手を出しませんよ。教師ですから」
いつもの笑顔を向ける先生を俺は恐ろしく感じた
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