アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
藍川さんの食べ終えた器を水で流す。
まだ、さっきの言葉が頭から離れなかった。
"15の時だから…"
テレビでもネットでもそんな話は聞いたことなかった。
そりゃそうだ。
有名人だからって何もかも世間に私生活や過去のことがバレてるわけじゃない。
「小波くん家事は全部出来るの?」
「え?あぁ…うち、下の兄弟多くて親が付きっきりだったんでよく手伝いとかしてたんですよ。」
「そうなんだ。確かにお兄ちゃんって感じするもんね。」
「よく言われます。藍川さんは兄弟とかは?」
「5つ下に弟が一人。可愛かったよ。」
「へぇ。今は連絡とかは?」
「うん。3年前に自殺しちゃったんだ。お墓参り行かなきゃいけないのに行けてないから怒ってるかもね。」
あはは、と藍川さんが笑った。
思わず手から力が抜けて洗っていた器が流しへ落ちる。
「…小波くん、大丈夫?」
「すみません…びっくりして。…悲しいこと話させてすみません。」
「え?弟のこと?全然いいよ。この年になるとね、何もかも仕方が無い事だって思えるんだよ。それも運命だって。」
そう言って肩肘をついてクスクスと優しく笑った。
テレビの中で見た"作家 藍川"はいつだって完璧で何の隙もなかった。
それは目の前に今いる"藍川さん"も同じで。
俺が少しのことに大袈裟に驚く度に不思議そうにしては笑い飛ばされてしまう。
その姿がどこか悲しくて。
「…小波くんは優しいなぁ。」
俺の方が苦しくなった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 208