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藍川さんが俺の目を不思議そうに見ては黙り込む。
完全に引かれた。
もし俺が藍川さんの立場なら気持ち悪くて仕方ないかもしれない。
「すみません、俺…」
「…今の本当?」
「え?…本当です、けど……」
「そっか…そうなんだ。まだ、待っててくれる人がいるんだ。」
へにゃり、と笑うと藍川さんが首をかしげて澄まして見せる。
今まで空白のないくらいの速さで本を出していた藍川さん。
それがここ2年間は新しい話どころか文字の一つさえ何も無かった。
休みます、の一言もなく。
何度も何度も本を読み返してきていた。
この人の、藍川さんの書くものが読みたくて。
「ふふ、嬉しいなぁ。…もう居場所なんてないと思ってた。君がそう言ってくれるなら…また、書けるようになりたいなぁ。」
「…そのために俺が来たんです。」
「そうだね。小波くんの努力を無駄にしないようにしなきゃ。…あぁ。」
優しく笑った藍川さんが部屋の隅に置いたままだったジャケットを手に持ち、俺へ差し出してくれる。
「これ、取りに来たんだよね。長居させてごめん。大切なことを教えてくれてありがとう。」
「…あ、ありがとうございます。こちらこそ、…えっと。」
「改めて。…これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
真っ赤な夕日に抱かれた藍川さんがすごく、すごく綺麗だと思った。
この人のために働こう。
この人を支えよう。
そう何度も唱えながら帰り道を歩いていった。
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