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月曜日 朝9時。
ネクタイを締め直して扉の前に立つ。
この家に来るのは今日で2度目です。
インターホンを一度押して応答を待っていても相変わらず反応はない。
…朝には弱いタイプなのか。
昨日も今日の朝もメールを入れておいたはずだけど、返信はなかった。
見ても返信をしないタイプなのかと上司に聞いたところ前まではきちんと丁寧な返信が帰ってきていたらしい。
少しずつ単語の返答になり、「はい」だけになり、今になってはなんの返答もなくなってしまったと聞いた。
…本当に文がかけなくなったってことか?
「藍川さん、入りますよ。」
そう言って鍵を開ける。
入りますよ、なんて声をかけても中には多分聞こえたいないだろうけど。
鍵をかけて廊下を歩いていく。
金曜日、廊下へ置いたゴミは捨てられずそこに置いてある。
…せめて生ゴミくらいは捨てておいて欲しかった。
どこにいるのだろうか。
とりあえず、と寝室のドアをノックして開く。
が、姿はない。
リビングか…?
「入りますよ。」
この家のリビングは普通の家には珍しく鍵がついている。
だからわざわざリビングに入るために鍵を開けなければならない。
鍵を開け中へ入った瞬間、全身に鳥肌が立った。
…もわ、とした空気とどんよりとした重さ。
あれだけ綺麗に片付けた部屋はもうあちこちに溢れた本や雑誌、新聞で荒れ始めている。
肝心の藍川さんの姿がない。
「藍川さん?」
入口荷物を置いてキョロキョロと周りを見渡す。
ソファへ向いた時、その上に確かに人の姿が見えた。
…寝てる?
「藍川さん、…藍川さん。」
髪に顔が隠れて見えない。
起こそうと肩を揺らすと顔にかぶった髪が振動で徐々に落ちていく。
「う、っ…わ、…!!」
あまりの驚きに悲鳴に似た声が口から飛び出す。
腰を抜かして床へ蹲ったまま目の前を見つめていた。
髪の隙間から見えた藍川さんは眠ってなんかいなくて、その目は真っ直ぐと目の前の"何か"を見つめていた。
正直、恐ろしいとまで思った。
「大丈夫、ですか…?」
「……小波くん?」
「はい、そうです。…なんでこんな、…」
そう言うとどこかを見ていた目が一度閉じられ、また開くと優しい目に戻っていた。
ぐったりとしていた体が起きるとへにゃりと笑って「おはよう。」なんて言った。
…なんだったんだ、今の。
「藍川さん…?」
「うん?…ごめんね、あんまり寝付けてなくて。驚かしちゃった。ちゃんとベッドで寝るようにって言われてたのに。」
「いや、それはいいんですけど…とりあえず、おはようございます…?」
「はい、おはようございます。」
へらりと笑う顔を見ながらただ呆然としていた。
俺はこの人がよくわからない。
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