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散らばった紙類をまとめてまた廊下へ出す。
…それにしても、この雑誌一体どうしてるんだ?
束の一番上にあった雑誌を手に取る。
そこで、ふとおかしな事に気付いた。
「これ、…前と同じやつだ。」
慌てて束の中から雑誌だけを抜き取っていく。
いくつもの週刊誌は確かに月や出版社が違うものが多いが、同じものがいくつもある。
わざわざ自分を批判している物ばかりを集めて部屋にばら撒くのは何のためだ…?
けれど、もしそれが藍川さんなりのスランプからの脱出法なら俺から何か言うのはおかしな話だ。
「はぁ…ゴミにするくらいなら買わなきゃいいのに。」
なんて思いながらまた元通りに束にしてリビングへ戻る。
ほかの場所は、と台所を見ても綺麗に片付いたままで何も増えてない。
それどころか水周りには水滴すら見えない。
唯一冷蔵庫に入っていた水のペットボトルが二本減ってるだけだ。
首をかしげ、気持ちよさそうに眠る藍川さんの元へ戻ってくる。
規則正しい寝息を立てて眠っている姿はまるで子供みたいだ。
それなのに目の下にはくっきりと隈がついていて肌は不健康なくらいに白い。
このまま寝かせておくほうが良さそうだ。
「…暇だな。」
アシスタント、なんて名目で来ているはずなのにやってることは家政婦同然だ。
まぁ…仕方ないか。
立ち上がり大きな本棚の中から藍川さんが最後に出した"群青色の夢"を引き抜く。
今の時間に読ませてもらおう。
この本は今から少し未来の話で海面上昇により沈む街に住む少年と少女の物語が描かれている。
沈むまでにやりたいこと、描いた夢を叶えていくが時間は足りない。
いよいよ街は半分まで浸かりもう街の人は皆いなくなってしまう。
最後には2人、沈み掛けのバルコニーに座り夢を語り海に流されて死んでしまうという話だ。
この話は少し批判の声もあったが表現や情景が美しすぎる、といくつもの賞がついている。
「…この群青色の海が、いつか空と重なった時。夢は夢じゃなく…希望として語られるだろう。」
チクタクと時計の音だけを聞いて本を読み進めていく。
日が傾いていくのにすら、気付けないくらいに物語に飲み込まれてしまう。
これが"天才作家 藍川"の力なんだ。
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