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車を降りて藍川さんの斜め後ろついていく。
藍川さんはギュッとバッグを抱きしめたまま少し落ち着かないように何度も俺の方へ視線を向ける。
「ええと、…」
「電気屋さんだね。電気屋さんは一番上の階のはず。」
「エレベーターで上まで行っちゃいますか。直通ですし。」
「うん。」
駐車場から直通のエレベーターに乗って2人で上まで上がっていく。
広いショッピングモールには必要なものはほぼ揃っている。
電気屋だって大きい。
エレベーターが最上階まで行き開くと藍川さんがくるりと俺の方へ向き直した。
「どうしました?」
「隣歩いててもらえるかな。はぐれないように。」
「え?…わかりました。」
言葉の意味がよくわからないまま隣を歩いていく。
掃除機のコーナーは奥の方らしい。
ソレを伝えようと隣にいる藍川さんへ向き、俺が口を開くより先に知らない声が聞こえた。
「あの、作家の藍川さんですよね…?」
「あ…はい。」
「ずっとファンだったんです…!!」
「ありがとうございます。嬉しいなぁ。」
「その、一緒に写真とか…」
「俺でいいなら。」
話しかけてきたのはどこかの主婦らしい。
その声にドッと周りの視線が集まる。
小さな声で
「藍川?」 「あの作家の」
なんて声が聞こえてきた。
藍川さんは1人1人丁寧に笑顔で接しているみたいだ。
あっという間に周りには人だかりができ、エレベーター前が混雑してしまう。
「あの、藍川さん…!」
「どけよ。」
「ちょっと…!!…藍川さん、一旦ここは引いて…」
「どけって言ってんだろ。」
知らない男に人だかりの外へ弾き飛ばされてしまう。
ドンドン流されてもう藍川さんの姿が見えない。
"今日は迷惑をかけるだろうけど、よろしくね。"
その言葉の意味をよくやく理解した。
テレビにも出ているような天才作家。
特に藍川さんの場合はあの容姿から熱血なファンも多い。
こんな風にすぐに人だかりができるのも当たり前だ。
「藍川さん!!」
人だかりの中へ声をかけても、もう届かない。
…アシスタントなのに。助手なのに。
肝心なところで役立たずだ。
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