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二人してトイレの洗面台の前へ座り込む。
誰かが来ても、まぁここならまだ人だかりはできないはずだ。
…にしてもこの人、想像以上に目立つな。
「藍川さん、大丈夫でした?」
「平気だよ。小波くんは?」
「俺も大丈夫です。…びっくりしましたね。あんなにすぐ人だかりができるなんて。」
「あはは…本当、お店の人には迷惑だから出来ればやめて欲しいんだけど。」
藍川さんが困ったように目を伏せて笑った。
…まぁそりゃそうか。
人気すぎて困る、なんて俺からすれば贅沢な話だと思うけれど。
けどこれじゃ買い物も続けられない。
「買い物、どうしますか?」
「…これ以上お店に迷惑かけられないからね。ネットで買おっか。ごめんね、直接選べなくて。」
「いやそこは全然気にしてないんですけど…。それにしてもすごい人気でしたね。特別な存在ってこういうことなのかーって思いました。」
「特別、なのかなぁ…」
藍川さんが手を口に当てて首をかしげた。
その表情はどこか悲しそうで、どう見ても嬉しそうには見えなかった。
そしてゆっくりと瞬きをしたあと俺へ目を向けた。
「…名誉なことだと思う。でもね、…普通に買い物して美味しいもの食べて、なんとなく…そうやって過ごす普通の日常はすごく素敵なものだと思うんだ。」
「え…?」
「普通じゃないことと普通なこと、どっちが優れてる…とかじゃなくてね。ないものねだりなんだ。ほら、俺はあまり目立つことは得意じゃないから。」
ふわりと笑った頬には小さな傷があった。
さっきの人だかりで出来たものだろう。
それに靴先には踏まれた跡があり、髪は少し乱れていた。
普通な事と普通じゃない事。
俺はてっきりソレを特別だと思っていた。
でも。
「帰ろっか、小波くん。」
「…はい。」
たった30分もココにいることが出来なかった。
そんな藍川さんの生活は普通以下なのかもしれない。
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