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なんとか人目を避けて車まで戻ってくる。
車へ乗り込み席に座ると、やっと落ち着いた。
二人揃って「ふぅ」なんて息をついて笑ってしまう。
「なかなかサバイバルでしたね。」
「あはは。楽しかった?」
「しばらくは遠慮したいです…あ、でも食料も買えてませんね。」
「近所のスーパーは店長さんと仲良しなんだ。メモとお金を渡したら売ってくれるよ。一度家に帰ってから行こうかな。」
「えぇ、…なんて便利な制度なんですかそれ。」
「長年の付き合いのおかげです。」
ふふん、と自慢げに笑うとそのまま目を閉じてしまう。
…疲れたんだろうな。
そのまま起こさずに車を走らせる。
買い物に来てあんな風に囲まれるのがいつもの事なんだろうな。
だから行く前に少し意味深なことを言っていたんだ。
きっと…普通に買い物して帰ってきたかったはずなのに。
信号で止まり隣の藍川さんへ目を向ける。
長いまつげに高い鼻、それから薄い唇はほんのりピンク色をしている。
そこらにいる女の人よりもずっと綺麗に見える。
じっと見ていると小さな口がほんの少しだけ動いた。
「…あのね。」
「はい…?」
「さっき。…盗作してるのかって聞かれたよ。転載、…転じて載せるって方ね。ソレしてるんだろうって。」
「そんな…」
「…小波くん。俺はね。好きなものを書いていたかっただけなんだ。俺の書いたもので伝わることがあるんじゃないかって。…そう、君なら信じてくれるかな。」
長いまつげが少し濡れて、目の際へ水滴が落ちた。
「俺は、貴方を信じます。…あなたの作品も、あなた自身も。」
「ありがとう。…君がいてくれてよかった。」
まだ閉じたままの目。
涙に濡れてキラキラと光る睫毛。
空調で揺れる前髪。
少し隙間の空いた唇。
それが 目眩がするくらい魅力的に見える。
飲まれてしまいそうなくらいに。
「…小波く…、んっ……?」
少し時が止まった気がした。
一瞬だけ、不意に重ねてしまった唇が燃えるように熱くなる。
意識が戻るより前に、ブーッと後ろから割るような音が聞こえ飛び跳ねた。
前を見ると信号は青。
ヒ、ッなんて声が出て慌ててアクセルを踏んだ。
前を見て運転するフリをして藍川さんを見ないようにした。
いや、実際しているのだけど。
そのまま家に帰るまで俺達は言葉を交わすことが出来なかった。
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