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机のそばに座っていると、藍川さんが向かいに座ってニッコリと笑った。
「小波くん。珈琲煎れてあげようか。」
「え?…煎れられるんですか?」
「馬鹿にしすぎだよ。コーヒーメーカーに入れたら自動的にできる便利な世の中なんだから。」
そう言って立ち上がると台所へ向かってしまう。
思えば、藍川さんが台所に立っているのを見るのは初めてだ。
少し長い髪が頬にかかるのも、動く度に揺れるのも綺麗だ。
…なんというんだろう。
存在自体に虜になっているのかもしれない。
「あの、…藍川さん。」
「うん?」
「さっきは…本当にすみませんでした。俺も、どうして急にしたのかわからなくて。…嫌な思いさせたと思います。」
「気にしなくていいって言ったのに。」
「でも、そんな…」
コーヒーメーカーのセットを終えたのか手ぶらのままに藍川さんが戻ってくる。
いつもと様子は変わらない。
俺の正面にくると肩肘をついて、俺の目を少し見上げるように座った。
「キスしたこと、気にしてる?」
「そりゃ、もう…」
「あはは、…だろうね。でも本当にいいんだ。…小波くんとはずっと仲良しでいたいから、こんな事でチグハグにはなりたくないよ。」
「…でも、その…っ、…」
「うーん…きみは俺のことを愛して恋をしていて、それでキスをした?」
「…そういう訳じゃないんですけど。」
今、少し失礼なことを言ったかもしれない。
好きでもないのにキスをした。
なんて言われて嬉しい言葉じゃない。
なのに目の前の人は今日一の笑顔で笑うと
「それじゃ何の問題もないね。」
と言った。
「はい…?」
「キスがしたかっただけなんじゃないかな。それなら、いつだって唇くらい貸すよ。…さ、この話はこれで終わり!珈琲でも飲んで買い物行って今日は終わろう?」
「でも、…」
「小波くん。」
遠くでカチ、と珈琲メーカーの音が鳴った。
藍川さんの目が少し細くなって一瞬、悲しそうに笑った。
「気にしないでいて。」
お願い、と言っているように。
まただ。
髪が、頬の色が、唇が、そして睫毛が。
何もかもが色っぽく見える。
「…はい。」
「さて、珈琲ができたみたいだね。」
この人を知って八年目。
この人に出会って二日目。
俺は 初めての感情を知った。
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