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触れることの無かった、藍川さんの唇が小さく動いた。
悲しい目を見つめるとその人は少し目を細める。
「ごめんね、俺が曖昧な言い方をしたから。…もうダメだよ。」
「…どうしてですか?」
「…きみは俺のことを愛して恋をしていて、それでキスをしようとしたの?」
前に一度された質問とほぼ同じ質問だった。
けれど、今度はすぐに返事を言えなかった。
…俺のこの藍川さんへの感情は?
恋?愛?
得体の知れない感情に俺の理性が崩されていく。
「これは、…」
「うん、それは?」
藍川さんが少し濡れた目で俺を見つめた。
見たことがないくらいに綺麗だ。
その頬に触れられたい、少しでもこの人の近くにいたい。
そう思うのなら、この感情は。
「俺は、貴方が好き…なんですか…?」
「…好きじゃないよ。」
そうきっぱりと言うと、少し切なげに微笑んだ。
細い手が俺の髪を撫でると、優しく頭をポンポンと叩いた。
まるで小さな子をあやす様に。
言葉の意味も行動の意味もわからずポカンとしてはただ藍川さんの目を見ていた。
「きみはね、勘違いしてる。きみの"好きかもしれない"は…作家である俺への憧れと期待だよ。それは俺じゃない。」
「でも、…俺は藍川さんに会う前より格段に貴方を好きだと感じています。」
「紙の向こうじゃなくなったからだよ。小波くん、そのキスも感情も勘違いだよ。」
そう言うとまた小さく笑い手が頭から遠ざかっていく。
この感情の全てが勘違いなら。
俺は2度も、どうしてキスをしたくなったんだ。
「藍川さん、俺は…っ」
その時、言葉を遮るように音の高いアラームが鳴り響いた。
藍川さんは俺を見つめたまま
「またね、小波くん。」
とだけ言う。
目の前で微笑む藍川さんを見て、俺は"酷い"と思った。
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