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小波くんの帰った部屋で1人、ソファへ体を預ける。
少しキツいことを言ってしまったかもしれない。
あの子はきっと"藍川"に恋をしている。
綺麗なところだけを寄せ集めて都合のいい"藍川"を見てしまっている。
酷い話。
俺の汚いところを全部消し去ったような存在だ。
「…小波くん、暖かかったなぁ。」
あの子に触れた手を天井へ向ける。
目を閉じれば、あの悲しそうな顔が思い浮かぶ。
あの子にとっては確かに恋なのかもしれない。
でも俺はそのために綺麗な藍川で居続ける自信が無いんだ。
なんてったって、俺は人間の底辺のような生き物だから。
そんな風に物思いにふけていると、机の上の携帯の画面に誰かからの着信が表示された。
近付いて見ると"出版社の偉い人"の文字。
電話は基本出ない。
けど、小波君のことがあったから少しはお詫びの気持ちで出るのもありかもしれない。
「はい。」
『お?お前が出るなんて珍しいな、明日は槍が降るんじゃないか。』
「酷いですよ。出ないってわかってて電話かけないでください。」
『いやぁ、礼儀ってもんだろ。』
「礼儀は詳しくないんです。なんの御用ですか?」
『そりゃ新作についてに決まってるだろ。』
まぁそうだろう、と思ってはいたけれど都合の悪い話にやる気が何もかも削がれてしまう。
体の力を抜いてソファへもたれ掛かると思わず小さくため息が漏れた。
『ため息つきたいのはこっちだ。調子はどうだ?』
「相変わらずです。急かしたって何も出ませんよ。」
『お前がこの調子だと小波の出世にも響くぞ。』
「人の人生かけないで下さい。…あぁ、もう。そんなに言うなら僕の名義で誰かの本出せばいいじゃないですか。」
『週刊誌を現実にしたらそれこそまずいだろ。なぁ藍川。何がそこまでお前を縛り付けてんだ?アンチか?』
「…いえ。」
アンチか何か、と言われればもう何が何だかわからない。
何にしても書けないものは書けないんだ。
俺が書いたところでまた その文字は誰かに嫌われるだけだから。
『はぁ、…わかった。あと2ヶ月以内にお前が原稿を出さなかったらうちは切る。わかったな?』
「…分かりました。二か月前にも同じこと言われましたけど。」
『五月蝿い、じゃあな。』
「また。」
通知音の鳴る携帯を床へ置き、はぁとまたため息が出た。
どうして皆して俺にこだわるんだろう。
俺じゃなくたって死にものぐるいで頑張ってる作家の卵はあちこちにあるのに。
脱力してソファへ寝転がる。
あぁ、 一人ぼっちだ。
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