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鞄を入口に投げ捨ててスーツのままベッドへ飛び込んだ。
体も心も疲れきってる気がする。
それなのに明日から休み、っていう感覚がしない。
…藍川さんの家に行くのは仕事じゃない気がする。
「…はぁ。」
少し気まずくなってしまった。
100%俺が悪い。
知り合って日が浅い年下の男に二度もキスを迫られたら誰だって気分は良くない。
普通だってそうなのに藍川さんは特別な人間だ。
余計に気も悪く感じるだろう。
気まず過ぎてまたね、という藍川さんに何も言わずに帰ってきてしまった。
…月曜日にどう言って会おう。
そう考えているとズボンのポケットに入れていた携帯が振動を始める。
画面には"吉田"の文字。
上司からの電話だ。
「お疲れ様です、小波です。」
『お疲れ。勤務外に悪いな。お前に頼んでる藍川だが来週は行かなくていい。』
「え?」
『来週は他の仕事を頼む。再来週からはまた子守してやってくれ。』
「わかりました。…あの、それ藍川さんから何か言われてですか?」
『いいや、そういう訳じゃない。藍川に付きっきりでもアイツはすぐには書いてくれそうにないからな。』
そう言うと上司ははぁ、と大きくため息をついた。
…てっきり俺があんなことをしたから担当から外すように言ったのかと思ったけれど違うらしい。
とはいえ、こんな状況でもあの藍川さんを一人にするのはどこか不安だ。
「あの、…藍川さん一人で大丈夫ですか?」
『あ?あれでもしっかりしたやつだ、平気だろ。今までだって一人で生きてきたんだ。まぁ多少不安定だけどな。』
「…そうですよね。」
俺と出会う前までは一人であそこに住んでたんだ。
ご飯だって、家事だって最低限のことは出来るはず。
…でも。
朝、ゲッソリとしてソファに横たわっている姿や荒れた部屋、食生活を思うととても安心はできない。
『こんな仕事を頼んでおいてなんだが、藍川に深入りはするな。俺だってアイツは正直扱いきれないんだ。』
「どういうことですか?たしかに変わってますがそんなに…」
『まぁなんだ、…アイツは感情が欠落してんだよ。極端に愛に飢えてる、というか知らないんだそういうことを。友達になるだとか親しくなるだとか簡単に約束してやるなよ。
余計アイツを苦しめるだけだ。』
上司の言葉を聞きながら全ては理解できなかった。
…藍川さんは一体、どんな人生を生きてきたんだ?
藍川さんは 何者なんだ?
あの優しい笑顔を思い出しながら俺はなかなか返事をできずにただ携帯を握りしめていた。
*吉田さん
memory社の編集長。
藍川さんの中の偉い人で、小波くんの中の上司。
ノリのいいおじさん。
藍川さんとはデビュー時からの付き合い。
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