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小波くんへ断りを入れて仕方なく携帯を手に取る。
何が嫌かって電話の相手だ。
…この間出たから許してくれたらいいのに。
「…はい。」
『よう藍川。居留守とはいい度胸だな。』
「それはどうも。なんの御用ですか?」
『褒めてないぞ。秋にうちから出る有名作家詰め込んだやつあるだろ。』
「あるだろ、って言われても知りません。」
出版社の偉い人からの電話だ。
隣に小波くんがいるせいで余計に気分が悪い。
いつも本を書け、かいつ出来るんだ?の催促なんだから出なくたって問題は無い。
どうせ今日も…
『お前もなんか書けよ。』
「だろうなと思いました。書きません、…というか書けません。」
『少しでいい。年々売上が落ちてて困ってるんだ。あの有名作家藍川が復活!なんてポップが付けば間違いなく話題作になるぞ。 』
「…はぁ。」
思わずため息が出る。
横を見ると小波くんがポカンとしたまま俺を見ていた。
…この子にはこんな姿見せたくなかったのに。
この人と話す時だけはどうしても"人格"が崩れてしまう。
『なぁ藍川、少しだけでいい。100字でいい。』
「無理です。書ければ僕だって苦労してません。」
『お前も情がないな。お世話になった編集長さんに協力をーって気持ちにはならないのか?』
「…書けないものは書けません。」
『締切は11月の頭だ。あと二ヶ月近くある、お前ならいけるな。』
「いけません。」
『ページ開けて待ってるぞ。じゃあな。』
「あ、ちょっと……」
書きませんよ、と言う前に一方的に電話を切られる。
二年も何も書かずに引きこもっていた男に何を書けというんだ。
はぁ、と大きくため息をつくと小波くんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
この子のためにも…何か書かないといけないことくらいわかっているのに。
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