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約束
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リビングへ戻り、藍川さんと並んでソファへ座る。
隣の人は明らかな作り笑いを浮かべニコニコと笑った。
「さ、お話しようか。」
「…はい。」
今からきっと話したくないような、辛い話をするのにこの人は嘘の顔しかしない。
見せたくないから、見られたくないから。
そうやって隠してるだけなのかもしれない。
「えっとね。さっきの人…、あの男の人は先生だったんだ。」
「そう呼んでましたよね。学校のですか?」
「ううん。施設の。」
「施設…?」
「なんて言えばいいのかな。小さい頃に…孤児院に入っててね。そこの先生だったんだ。」
思わず言葉を失った。
藍川さんの経歴や過去は何もネットには漏れていなかったから誰も知らなかった。
もちろん俺も。
だからこそあるはずもないデタラメが流れていたのだけど、まさかこんな過去があっとは思わなかった。
「あはは、驚かせたよね。ごめんね。その頃からお世話になってた人なんだけど…あんまり好かれてなくて。こうなっちゃったのかな。」
「いえ…すみません、なんだか。…そんなこと知らなくて。」
「当たり前だよ。小波くんはよく当たり前のことを謝るね。聞いてないことは知らなくて当たり前だから。だから聞くんでしょ?…ふふ、変わってるなぁ。」
クスクスと笑うと辛い過去を笑い話みたいにしてしまう。
でも知りたいことは、過去じゃない。
あの人のこと。
藍川さんが酷く怯えていた理由。
「…藍川さん程は変わってませんって。
あの、…あの人に何かされたんですか…?」
「…ううん。俺が、器用な子供じゃなかったから。」
悲しそうに首をかしげて笑うその人は
世界で一番優しくて悲しい人だと思った。
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