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「俺は昔から不器用で人並みに何も出来なかったんだ。…だから、そうだなぁ。よく指導してもらって。」
伸びた服の袖口を口に当てながら一つ一つ言葉を選ぶようにそう言った。
俺は何も言わず小さく頷くだけの返事をする。
「それが怖くて。でもね、俺が悪かったから先生は悪くなかったんだよ。今日だってね。…君に手を上げたことは先生が悪いけれど元はと言えば俺が…こんな不安定な仕事をしてるのが悪いんだ。」
「それは…!」
「ううん、俺が悪いんだよ。才能も…確信もないのにずっとその気で続けてる。
だから先生はきっと怒ってるんじゃないかな。」
「俺が見てる限り…いや、世間が見てる限り。貴方は間違ったことなんてしてない。貴方はなんて呼ばれてたか知ってますか…!?」
「ええと…」
「文学界の革命者です…!最年少でデビュー、最年少でいくつも賞をとって…こんなに綺麗な文を書く人はこの世にいなかったとまで言われて…それを否定する権利なんて誰にもない…!!」
そう言っても藍川さんの目は笑ったりしなかった。
なんども首を振っては「違うよ」とだけ言った。
「編集長だって貴方の才能を認めたから…っ」
「違うんだ。俺は、ただ……逃げてきただけなんだよ。」
「逃げ、……?」
「…小波くん、どうしよう。…どうしよっか。」
首を傾げては悲しい目をした。
指先が俺に触れて服の裾を細い指がひっかく。
壊れそうな、崩れそうなか細い声で
「俺の現実逃避に…世間を、国を…巻き込んじゃったんだ。
だから…先生、怒らせちゃったね。」
そう言っては涙を流した。
貴方を知りたい。
貴方を知っていたい。
俺は
貴方を知るのはこんなに怖いことだと思っていなかった。
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