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何度言ったってこの子は認めてくれない。
俺は決して優しい人でも、彼に好かれるような人でもないのに。
「…藍川さんはどうして自分のことをそんな風に謙って言うんですか。」
「それが本当のことだからだよ。綺麗で優しい藍川さんは嘘。だから、君が本当の俺を知ったら失望する。」
「そんなこと、…」
「無いっていいきれる?俺なら…俺のこと、好きだって思えないよ。」
「俺は思います…!」
頑固だ。
何度言ったって同じように押し返される。
愛せる。だとか 嫌わない。だとか
他人に分かるはずもないのに。
俺は 君なんかに愛されていい人間じゃないんだよ。
「俺があなたの事を好きなのは何を知ったって変わらない…!」
「……っ、知ったような事言わないで。俺は、…君に好かれるような人間じゃない、それが正解だから…!」
「なんで自分のことそんなふうに言うんですか!?」
「君に俺の何がわかるの…!?」
思わず声を張り上げてしまう。
慌てて小波くんから手を離し自分の口を押さえる。
こんなこと言いたくない。
小波くんを傷つけるためにいるんじゃないのに。
君に嫌われたくないのに。
「…すみません、その通りです。」
「ごめん…ごめんね、小波くん。…っ俺、どうかしてる。」
「俺が無理やり聞こうとしたからですよね。…俺、藍川さんのこと何もわかりません。きっと理解できない。」
「うん…。」
小波くんが落ち着いたトーンで話す。
この声が好き。
怒ったような、踏み込んでくるようなあの声は苦手。
「俺、両親がいて、弟がいて。…子供の時から今まで辛い思いなんてほとんどして来なかったんです。平凡に当たり前に幸せでした。だから、…俺が理解できないくらい貴方は辛い思いしてきたってことしかわかりません。」
「…それでいいんだ。」
「そうなんですよね、普通は。でもそれじゃ苦しい。貴方の辛さを知らないまま貴方を好きでいたくない。
貴方を好きでいる資格が欲しいんです。」
俺は 普通の人じゃないから。
普通の君とは釣り合わないから。
君ほど 俺は立派な人間じゃないから。
でも
そんな君を幸せにするためなら 少しくらい
俺の不幸を分けるくらい するべきなのかもしれない。
「…きっと話す。近い未来に。」
「これは約束ですか?」
「……約束だよ。」
そんな約束誰の得にもならないのに。
大きな小波くんの手が俺の頬に触れる。
俺はただ 俯いたまま目を閉じていた。
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