アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
「…会社に、お前の保護者が来た。」
その言葉を聞いた瞬間、藍川さんの目が見開かれた。
見たことがないくらいに。
「どうして…?」
「言い分はこうだ。売れない、活動もまともに出来ないうちの"息子"を預けたままにはできない。帰らせろ、だってよ。」
「……そう、ですか。」
「もちろん丁重にお断りしておいた。だが、お前の方にも何か来るかもしれない。…いや来たんだな。多分。」
「少し前ですけど。…大丈夫です、小波くんがいてくれたので。」
「へぇ。」
吉田さんが俺を見るとニィと笑った。
あの時、全く役に立てなかったけれど。
…にしても会社にまであの人が来た?
普通、孤児院を出た人間にそこまで執着するか?
「コレも多少は役に立ってるってことだな、関心だ。それでだ藍川。お前の意思を聞きに来た。」
「…はぁ。」
「お前はどうしたい?もう、ただの一般人に戻った方が楽か?」
藍川さんが目を伏せて黙り込む。
かつて天才作家として国を揺らした人だ。
数年発行が止まり、それでも名前は今でもあちこちにある。
もし この人が一般人に戻ったとしてもほかの人と同じような生活は送れない。
もし 戻ったとしたら。
またあの男に何かされてしまうんじゃないか…?
そんなの
「いやだ、…っ」
「俺は。」
俺が声を上げるのと同時に藍川さんが口を開いた。
「…僕は。貴方の元で、また本を出させて欲しいです。」
「それがお前の意思だな?」
「……多分。」
「お前、本当に締まり悪いな…」
一瞬、藍川さんが違う人みたいに見えた。
真面目な顔つきは何か強い意志を感じて。
すぐにまた、その目は眠そうに下がってしまったのだけど。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
93 / 208