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何もかけないままひとマス目をコンコンとペン先で叩く。
ふと顔を上げると、目の前には真剣な顔で原稿用紙を見つめるアシスタントさんがいた。
「そんなに見ても何も出ないよ。」
「…すみません。なにか、生まれる瞬間が来るなら見逃したくなくて…」
「あはは、大袈裟だなぁ。残念だけど今はまだ書けないよ。」
「何も思いつかない…ですか?」
小波くんはそう言うと残念そうに眉を下げた。
作家なら誰でも同じだと思う。
物語を書ける時は流れるように文字が浮かび衝動に駆られる。
一方、書けない時はとにかく何も思いつかない。
それはつまり。
「ある日を境に、誰も話さなくなったんだ。」
「誰も?」
「書いてるとね。…登場人物が話してくれるんだよ。今は全くだけど。」
「それは…藍川さんが今、心を閉ざしてるからですか?」
その言葉にビクリと身体が揺れた。
…何もかも、見透かされてるみたいで怖かった。
「そう、…見える?」
「…そういうわけじゃないんですけど。藍川さんが話せなかったら物語も話せないんじゃないかって…。」
「君は目がいいね。その通りかもしれない。…俺は今、上手く話せないから。」
「いきなり物語を書き始めるんじゃなくて…例えば練習とかって出来ないんですか?俺は書かないからわからないんですけど…」
「練習…か。」
執筆に練習なんてあるのかわからないけれどそれは一理ある。
思いつかないなら書き移せば、わからないならヒントを辿れば。
画家のスケッチのような。
「…なるほど。」
「何か、変わりそうですか…?」
今目の前にいる彼を辿れば
何か わかる気がする。
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