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(藍)
車椅子に座ったまま食堂で僕の分の水を取りに行ってくれたお兄ちゃんが帰ってくるのを待ってた。
僕は何も出来ないけど、お兄ちゃんがいるから辛くないんだ。
首だけ動かしてお兄ちゃんを目で追う。
両手に水の入ったコップを持ったお兄ちゃんは、ぼーっと前を見つめてまるで心が無いみたい。
「藍。水。飲む?」
「一口飲みたい。」
「口。開けて。」
「あー」
「……もう、いい?」
「うん。」
お兄ちゃんはいつも僕よりも大人っぽくて。
でも、優しくてもっとたくさん話してくれたのに。
今のお兄ちゃんはあんまり話してくれないしお人形さんみたい。
ただ 僕のお世話をしてくれるだけ。
お話も 前よりも苦手になったみたい。
お兄ちゃんが少しずつご飯を僕に食べさせてくれる。
前までは僕が食べてる間にお兄ちゃんも食べてたのに最近は僕が食べ終わってから詰め込むみたいに食べるの。
「ご馳走様でした。お兄ちゃんは食べないの?」
「…食べる。」
「お腹痛いの?顔、白いよ。」
「大丈夫。」
お兄ちゃんの顔は真っ白で。
辛そうな顔でご飯を押し込んでいくんだ。
美味しいのに、どうして?
僕はただ見つめるだけ。
「…藍。」
「なぁに?」
「お腹、空いてない?…お兄ちゃん、お腹いっぱいなんだ。」
「うーんと…半分なら食べられるよ!」
「ありがとう。口、開けて。」
「ん、あー…」
少しだけお兄ちゃんの顔が柔らかくなった気がする。
僕は口を開けて食べてると、お兄ちゃんの後ろに先生が立っていた。
ご飯をモグモグしながら首を傾げると先生が手をお兄ちゃんの頭にぽんと置く。
「憂くん。ご飯、残しちゃダメだよって言ったよね?」
「……ごめん、なさい。」
「どうして残しちゃったの?」
「お兄ちゃんお腹空いてないって!」
「そうなの?」
「ぁ、……っ…食べ、ます。美味しいから。残さない、ちゃんと食べます。」
真っ白な顔がどんどん青くなっていく。
お兄ちゃんの手、震えてるみたい。
さっきはお腹いっぱいって言ってたのにいつもみたいにご飯を押し込んでいく。
大丈夫?
って、声をかけようとしたのと同時にお兄ちゃんの手から味噌汁の入った器が落ちる。
カタンって音が鳴ってお兄ちゃんの服と床に味噌汁が零れて一緒に持っていたお箸が床に転がっていく。
「お兄ちゃん、…っ大丈夫、…?」
「ひ、っ…ごめんなさい、っ…拭き、ます…」
「憂くん。」
「ごめんなさい、…っごめんなさ、い…」
「何回言っても上手くできないね。どうしてだろう?」
お兄ちゃんが真っ青な顔になる。
きっと、どこか具合が悪いだ。
お兄ちゃんは机の上に置いてあった布巾で床を拭いてたけど、すぐにガクガク震えて先生を見上げた。
先生は全然怒ってなくて笑顔でお兄ちゃんの頭を撫でる。
先生は優しいんだ。
「っ、ぁ……やだ、嫌…っいや、だ…っ」
「お兄ちゃん…っ、!?」
優しいのに。
お兄ちゃんは慌てて床に躓きながら逃げるみたいに走り出す。
けど、すぐに先生の手がその腕を掴んだ。
「憂くん、走ったら危ないよ。」
「…ひ、っぃ……っ、…助けて、…藍、…っ…」
「僕…?お兄ちゃん大丈夫…?どこか具合悪いの…?」
「大丈夫だよ。あとは先生に任せて。後で他の先生が来てくれるから藍くんは少し待っててね。」
「うん…わかった!」
「藍、……っ」
先生は優しいのに。
お兄ちゃんは先生が苦手なのかな?
でも なんだかおかしかった。
僕もなにか出来たらいいのになぁ…
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