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「みーたーなー」
「ひ、っ…!?」
「…なんちゃって。」
俺の脇腹を緩く摘みながら低い声で言うと、すぐにクスクスと笑う藍川さん。
一瞬本気で驚いた。
思わず本を投げ出して飛び上がると、藍川さんはのそのそと起き上がって俺の顔を見た。
「すみません、俺…勝手に……」
「酷い文だったでしょ。」
「…児童本かな、って…思いました。」
「半分あってるよ。それは10歳の子のための本だから。初めて書いた本なんだ。…世界に二冊しかない。」
「もう1冊は…?」
「弟と一緒に燃やしたよ。読む人がいなくなった本はこの世にはいらないから。」
「そうだったん…ですか。」
藍川さんが落ちた本を拾い上げると表紙を開いて中の文字をなぞる。
見たことのないような優しい顔で微笑むとすぐに本を閉じてしまう。
「いる?」
「え…?」
「あげるよ。俺はもう読まないから。」
「…いえ。読みたい気持ちは山々なんですけど…これは藍川さんと弟くんのためだけにあるんじゃないかなって思うんです。」
「あはは、もう弟はこの世にはいないよ。死んだ人のことをいくら思ったってもう生き返らないんだから。」
「それでも持っていてください。…お願いします。」
「…わかった。」
差し出された本を手で押し返す。
藍川さんは不思議そうな顔をしたあと、にっこりと笑うと本を抱きしめる。
少し弟が羨ましい。
俺も 少しくらいこの人の身近な人になりたい。
「…もう少し寝ようかな。」
「はい。出来たら起こしますよ。」
「ありがとう。手、繋いでてくれる?」
「もちろん。」
繋がったのは指先だけ。
今の俺は それで充分だ。
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