アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8
-
朝、目が覚めて天井を見つめた。
今日は人間でいる日。
顔を洗って、歯を磨いて、それから水を飲んで朝ごはんの菓子パンを食べる。
テレビをつけてNEWSに映る自分の顔を見て
「…面白い顔だな。」
なんてひとりでニコニコ笑ってみた。
今日はいい日。
服を着替えて、荷物を持って、偉い人に教えられた住所を確認する。
カーナビに入れたらそのまま連れていってくれるから確認しなくてもいいんだけど。
方向はテレビ局と同じ方。
「事故だけはありませんように。」
靴を履いて、鍵を締めて、家を出る。
車はあの日小波くんと乗った時以来で中は少し埃の匂いがした。
運転席にはまだあの子の匂いがあるような気がして後ろの席に置いたままだった消臭剤の封をあける。
何もかも 忘れるために。
「行ってきます。」
うまくいきますように。
「おはようございます。」
指定された控え室へ入って中にいる人に話しかけると、その人はゆっくりと振り返り優しく笑った。
…誰だろう、この人。
「おはようございます、藍川さん。今日からマネージャーをすることになった者です。」
「…ええと、…おはようございます。出版社の偉い人に言われたんですかね…?」
「はい。」
「あぁ…すみません。俺、マネージャーとか人と関わるの苦手で…お願いしてないんです。」
「そうなんですか。…それじゃ、今日だけ付かせてください。それ以降は大丈夫なので。」
「うん、…ありがとうございます。えっと、…名前、…すぐ忘れちゃうんですけど聞いてもいいですか…?」
「松井です。」
「松井くん、よろしくね。」
どう見ても年下そうなその人は爽やかに笑うと深々と頭を下げた。
小波くんと同じくらいかな。
…そうだよなぁ、これが普通の反応だよなぁ。
普通、マネージャーはお願いしてないって言われたら食い下がる。
なのにあの子は頑なにそれを拒否して
貴方を救いに来たんです
なんて言ったんだから。
「ふふ、…」
「どうしました…?」
「ううん。面白いこと思い出しちゃって。…あ、ごめんなさい。すぐ敬語抜けちゃう癖あって…抜けてたら怒ってくださいね。」
「あぁ、全然…年下なんでタメ口で大丈夫です。」
「そう?助かるなぁ。…ええと、…何君だっけ、…松……」
「松井です。」
「そう、松井くん。ここまで出てたんだけどなぁ…あはは。」
この子もあのこと同じように優しい子だ。
俺の失礼なことにだって笑ってくれる。
怒らないし、親切にしてくれる。
でも
あの子の代わりにはなってくれない。
そんなことは分かりきっているから。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
146 / 208