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10日の朝5時から、コンビニの本棚の前でじっと待っていた。
外から見れば明らかに不審者なのはわかってるけど一秒でも早く藍川さんの本が読みたい。
「…あの、何か探して…?」
「あぁ…秋の文学会っていう…」
「それなら入荷してたはずです、取ってくるんで待っててください。」
「…どうも。」
流石に怪しまれたのか声をかけられたのがむしろよかった。
これで予定より早く手に入れることが出来る。
「これで合ってますか?」
「…あ、はい。すぐ買います。」
「それじゃレジへ。」
焦ってるとはいえ流石に態度が失礼すぎたと反省して会釈する。
店員が早々と通してくれたそれをすぐに受け取り家にも帰らず、店の前で封を開ける。
それは確かにうちの会社から出されたもので、付けられたラベルには
『天才作家 藍川 最新作へ繋がる物語』
とド派手な文字が並んでいた。
開いて数ページだけほかとは違い少し高い紙質になっている。
そこにすぐ"藍川"の文字が並んでいた。
『小さな光』
その後にある物語はたった数千文字で、ただのプロローグでしかない。
それは物語へ付け足した、いわば案内文のようなもので本来こんな風に大々的に取り上げられるものじゃない。
そう この人以外の誰かが書いた文なら。
"
どうかお助けください。
僕らが 暗く深い闇の中 前も後ろもわからなくなってしまう前に。
まるで 小さな波が起こるような ほんの僅かな変化でいいから。
僕らへ 小さな光を。
"
その冒頭文だけでボロボロと涙が出てきた。
あの人の文だ。
誰が見てもわかる、そんな文だ。
誰よりも優しくて 誰よりも美しい文だ。
「……貴方の、傍で…読みたかった。」
ソファで眠る貴方に厚手の毛布をかけて。
暖かいお茶でも飲みながら、床暖房の上で少し厚いクッションに座り。
貴方の指が俺の肩に触れながら
そんな 貴方の傍で本を開きたかった。
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