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偉い人に手を引かれて、酷く荒れた家へ上がっていく。
知らない人が見たら泥棒でも入ったんじゃないかと疑われてしまいそうな家だ。
あちこちに紙が散らばって廊下も部屋も足の踏み場がない。
その上ソファには服がかけられて布が見えないし、本棚はスカスカでその代わり床に積み上げられている。
机の上には食べたあとの食器がそのままで、冷凍食品の袋やケースが雑にゴミ箱に詰められている。
あぁ 酷いな。
「座れ。」
「…はい。あの、…何を?」
「小波がいるかどうか確かめたいんだろ?あー、でも会うのはダメなんだっけか。」
「すみません。」
「いやいい。…もうこんな時間か、あいつ早寝早起きっぽいからな。」
「僕の記憶が正しければ夜は遅いって言ってましたよ。」
「お、そうか?」
促されるままソファへ座ると偉い人が携帯を取り出す。
俺はただぼーっとそれを眺めていた。
今は何時なんだろう?
そんなことを考えていると、発信音が聞こえてきた。
「小波に気付かれたくないなら声、出すなよ。」
「…え?」
キョトンとしていると発信音が途切れ、聞きなれたあの声が聞こえてきた。
『ええと、…なんでテレビ電話なんですか?』
「夜遅くに悪いな。少しそのままいてくれ。」
『大丈夫ですけど…部屋着ですみません。あの、そっちはカメラつけないんですか…?全然意図がわからないんですけど…』
偉い人に向けられた画面の中には確かに小波くんがいた。
困ったような顔をして不思議そうにこっちを見つめてくる。
あぁ 本当にいた。
これは俺の妄想じゃなかった。
「もう、大丈夫か?」
その声に俺は小さく頷く。
『何が大丈夫なんですか?』
「いやー、もういい。悪かったな、おやすみ。」
『えぇ…?おやすみなさ、…』
言い終わる前に切られた電話はもう目の前から無くなって偉い人の手の中に収まっていた。
何も変わらない、あの子がいた。
「気は済んだか?」
「…はい、ありがとうございます。」
「あまり気にかけ過ぎるなよ。それじゃあな。」
「手間かけさせてすみません。…おやすみなさい。」
それだけの用を済ませるとそそくさと帰っていってしまう。
俺はソファへもたれ目を閉じた。
何も変わりのないあの子は、あの日のままだった。
失って 離れて こんなになっているのは俺だけ。
当たり前だ。
俺からすれば得体の知らない初めての感情でも、あの子にとってはよくあることなのかもしれない。
そしてそれはもう あのこの中で完結してるのかもしれない。
「…そうだ、これを本にしよう。」
そうしてしまえば
何もかも 終わらせてしまえる気がするから。
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