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暗闇の中
ただ 光が見えるのを待っていた。
俺は 大人になってあそこを出て自分でお金を稼ぐようになって。
てっきり、一人前になったんじゃないかなんて思っていた。
一人でも生きていける、もう誰にも支配されない。
なんて そんなの有り得ないのに。
もう子供じゃない、若くない。
それなのに 俺は今
呼吸さえも、光さえも、何もかも支配されている。
「憂くん、聞こえる?」
「…ぅ、……は、い。」
「電話だよ。」
そう聞こえたのは何時間ぶりだろう。
ずっと、音も感覚もない世界で生きていた俺にはそれが救いに感じた。
久しぶりに発した声は掠れていて、上手く言葉が出ない。
『ようやく出たな、俺だ。』
「……誰、で……すか、?」
『吉田だ。思い出せ。体調はどうだ?』
「よし、…だ……」
掠れた喉が痛くて口を閉じると手の先にチクリと痛みを感じた。
痛みに目を開くけれど、光すら見えなかった。
その代わりに小さな声で
「いつもみたいに人間らしく話すんだよ」
とだけ聞こえた。
人間、らしく。
『おーい、聞こえるか?』
「…すみません。体調、…まだ少し悪そう、です。喉がやられてて。」
『みたいだな。声が掠れてるぞ。咳は?ないのか?』
「咳、…は、もう収まりました。熱が…少し、…あって。」
『そうか。なぁ藍川、今、音はスピーカーか?それともお前にしか聞こえてないか?』
その声に体がこわばる。
…この人、…まさか気付いている?
でもここで「いえ、僕にしか聞こえてないです」なんて言えば先生に勘づかれるかもしれない。
考えろ 馬鹿は、馬鹿なりに考えるんだ。
「……原稿は、まだ僕しか見てません。」
『ここ数日お前から来たメールはお前が打ったものか?』
「いえ、…その原稿は…まだ書き終えてない…です。」
『お前は今、自力で逃げ出せるか?』
「…脱稿、の目処はありません。」
『それなら。お前は助けが必要か?』
「それでは、…その、方向で。お願いします。」
大丈夫
『わかった、明日の朝には行く。死ぬなよ。』
「…ご迷惑かけてすみません、…すぐ、治します。」
きっと、何もバレてない。
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