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電話が切れて、そのままカクンと力を抜くと大きな手が俺の体を撫でた。
くすぐったくて気持ち悪い。
その手から逃げたいのに体はピクリとも動かなくてソファに沈んだままだ。
「なんのお話?」
「…次、の…本の…ことです。」
「あぁ、また書いてるんだね。君の本は全部施設に置いてあるよ。」
「ありがとうございます、…」
「子供たちは皆口を揃えてつまらない、って言うけどね。」
「……ん"、…っ…」
その言葉にドクリと心臓が揺れた。
わかってる、わかってるから言わないで。
暗闇の中、誰かの手が俺の頬を撫でた。
「憂くん。先生は君を説得しに来たんだ。」
「せ、っとく…?」
「もう作家なんてやめてうちで働いた方がよっぽど世の中のためになるよ。世界で、これっぽっちも生きる価値のない君がほんの少しだけ価値を作り出すにはそれしかないんだ。」
「…許、して…ください、っ…俺は…」
「君がうちで働けば施設のためになる。施設のためになれば福祉に関わって真っ当な人間になれるんだよ。」
「…俺、…は、っ……」
施設に戻れば、俺はきっとまた狭い檻の中で扉を見つめることしか出来ない。
例え子供相手に働かせてもらえても名前も顔も覚えられないで傷つけることになる。
叱られて また昔に戻ってしまう。
今の生活は俺を受け入れてくれるから。
覚えられない俺を、対応しきれない俺をそれでいいと言ってくれる人がいるから。
例え それが本心でなくても。
「…未来が、見え…ます。」
「そっか。君は少しも頭が良くならなかったんだね。」
俺が100%の力で反抗しても、きっとこの人には勝てないでしょう。
優しい声に優しい手に
感じたことの無いような恐怖を感じた。
殺される、なんて甘いものだったらいいな。
暗闇の中目を閉じた。
視界は何も変わらないけれど。
明日、誰かが俺を助けに来てくれた時。
どうか 息をしていませんように。
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