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目が覚めてウトウトしながら部屋の扉を開けた。
むこうからいい匂いがしてくる。
匂いのままに半分寝ぼけたまま廊下を進んでいく。
そこは、狭いけれど片付いていてリビングには4つの椅子があった。
台所からお母さんが顔を覗かす。
「秋、春のこと起こしてきてあげて。」
「うん。」
そう言われて突き当たりの部屋へ向かう。
扉には"春"の文字。
「春、朝だよ。」
「ん…おはよう、お兄ちゃん。」
「おはよう。朝ごはんもうすぐ出来るみたいだから、早く起きておいでね。」
「うん。」
春を起こしてリビングへ戻ると、お父さんが珈琲を飲みながら新聞を読んでいた。
顔は見えない。
「秋、お前の映画今日の夜だったな?」
「映画じゃなくて2時間ドラマだよ。うん、今日の夜。」
「楽しみだなぁ。父さん、あれを楽しみに最近の仕事してたんだぞ。」
「大袈裟だよ。」
「お母さんだって今日のご飯はちょっとだけ豪華にしちゃおうかなーって思ってるのよ?」
「あはは、嬉しいなぁ…」
今日の夜は俺の小説が原作になっているドラマの放送日。
お父さんもお母さんも楽しみにしてくれてるみたい。
いつも優しいんだ。
俺や春に何かめでたいことがある度に祝ってくれる。
そんな優しい家族。
「そうだ、秋。来週みんなで遊園地に行かないか?」
「遊園地?もう俺も春もそんな歳じゃないよ。」
「いいじゃないか。子供の頃行けなかった分、今行こう。たくさんお前を甘やかしたいんだ。」
「…うん、それなら行こうかな。ありがとう、お父さん。」
新聞の向こうからお父さんの笑い声が聞こえた。
お母さんが机の上に美味しそうなご飯を並べる。
春が眠そうにリビングに入ってきて椅子に座った。
「さ、ご飯を食べて今日も頑張ろうね。ほら、お父さんも新聞片付けて。」
「あぁ、悪いな。」
新聞を横へ畳んで置いたお父さんを見上げる。
顔が、ない。
そうだ 俺、家族いないんだった。
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