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子供は理解できない、という顔で俺を見ていた。
それは女教師も同じようだった。
そりゃそうだ、小説の話をしてきたはずがいきなり子供にすると言い出したんだから仕方ない。
「憂。俺はとある出版社…いや、もう少し簡単に言う。本を出す場所で働いている。わかるか?」
「…はい。」
「お前が書いた話を読ませてもらった。お前が書いたものは本になるレベルで上手い。いい話だった。お前さえよければ、俺のところで本を書いて欲しい。」
「…本、書きたい…です。でも……」
憂は口を結ぶと手を強く握りながら何も言わなくなった。
相当面倒な理由があるらしい。
俺は少し体を乗り出し、憂へ少し顔を近付けた。
「学校、行ってないんだってな。」
「…はい。」
「外は嫌いか?」
「そうじゃ、ない…けど…」
「俺はお前が何を言っても怒らない。それにここには俺と優しい先生しかいない。何でも言え。ここでお前が言ったことは俺達だけの秘密だ。」
「怒らない……?」
「約束だ。」
そう言うと憂は顔を上げて目を大きく開いた。
まるで、光を見つめるように。
握っていた手を開くと小さな口をゆっくりと動かし話し始める。
「…外に、出してもらえません。先生はすごく怖くて。本は書きたいけれど見つかったら怒られます。すごく…怖い、お仕置きをされます。」
「そうか。それならもうここを出るのが一番いい。お前がされていることは普通じゃない。贅沢な暮らしは出来ないが今よりずっと幸せになれる。」
「幸せ…?」
「あぁ。好きなことをして、好きな風に生きるんだ。いいか憂。…お前はすごい才能があるんだ。才能っていうのはほかの人と違うすごい力だ。お前はすごい。」
「俺は、…馬鹿でドジでっ…生きてる価値、ないって…先生がいつも…」
焦ったようにそう言う憂の口を俺はおさえた。
それは違う。
それ以上間違えたことを言う必要は無い。
嘘を教えられてきたんだな。
それをずっと信じて、疑わなかったんだな。
「お前は、天才で充分器用だ。生きているべき人間だ。先生はすべてじゃない、お前の中ではお前が正しい。…わかったな。」
「はい…っ…」
憂の泣きそうな顔を見て俺は頭を優しく撫でた。
こんなに可哀想な奴が、何故あんなに優しい文を書けたのか俺にはわからない。
それがコイツの才能なんだろう。
幼い子供を見ながらそう確信していた。
「俺だ。藍川が目覚める前に傍を離れてやってくれ。ソイツは多分お前にそんな姿を見られたくはないだろうから。
傷つけないでやってくれ。」
俺はアイツを守らないといけない。
今も、昔も。
俺がアイツの"親代わり"である限りは。
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