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しばらくそんなことを考えながらぼーっとしていると、ガチャリと音を立てて扉が開く。
どこかで見たことのあるような誰かが入ってくると少し驚いた顔で俺を見た。
「もう起きてたか。」
「おはようございます、お世話になってます。」
「残念だが俺は営業スマイルするような相手じゃないから楽にしていいぞ。」
パッと明るく笑って見せたのにその人は嫌そうな顔をするとシッシッ、と手で俺の方を払ってくる。
お知り合いらしい。
「…ご迷惑かけてすみません。」
「本当にな。身体は大丈夫か?随分好き勝手されてたみたいだが。」
「少し痛みますがすぐ治ります。仕事も今日からでも。」
「…少しは休め。精神的にも落ち着いてないだろ。」
「充分休みました。」
そう言うとその人は大きくため息をついてあからさまに嫌な顔をすると俺の頭を持っていたペットボトルで優しく叩いた。
俺はキョトンとしたままその人を見ていると「馬鹿か」なんて言って呆れた顔をされてしまう。
…見たとおり、俺は馬鹿ですが。
「こういう言い方はお前は嫌うだろうがお前は監禁された上にレイプされてたんだ。普通なら法に守られるレベルにな。」
「そんな事は…」
「甘えとけ。辛い、苦しいって言ってもいい時だ。お前は壊れないと感情を表に出せないだろ。…お前の悪いところだ。」
「そう…ですか。でもあんまり辛いとも苦しいともいまは感じていません。なんで生きてるのかな、くらいにしか。殺してくれればよかったのにと。」
「…それは充分辛くて苦しいって感情なんだ。自分で認識できてないだけでな。」
その人はそう言うと可哀想な子を見るような目で俺をじっとみた。
この人は誰だっけ。
随分俺に詳しいらしい。
となると、作家になる前からの仲だろうか。
ええと、この顔は。
この声は…この話し方は。
「……偉い人だ。」
「あぁ、そうだな。」
「貴方は…僕を見てどう思いますか?」
「どういう意味だ?」
「あの施設にいた頃から今の僕まで。随分変わったような気がするんです。性格や話し方も表情も。」
「そうだな。」
「おかしくは ありませんか?」
「…慣れないやつの前で笑うお前は無理をしてるような見える。俺の前のお前は普通だ。だが、お前が忘れたとある奴の前にいるお前はお前らしくて自然だと思った。」
「僕が忘れた誰か?」
俺はそのままその人を見つめて記憶を巡らせてみた。
忘れた誰か、と言われてもこの世の大体の人は今記憶になくて。
そんな難しいことを言われても困ってしまう。
「いつか思い出すだろ。深く考えなくていい、何となくいろ。いつか変わる時が来る。…藍川。無理はするなよ。」
「…ありがとうございます。ええと、…」
「吉田だ。」
「吉田さん。貴方は昔から優しいですね。」
「子供相手だからな。」
そう言うと吉田さんは笑って俺にペットボトルを差し出し扉の方へ向かってしまう。
もう少しここで休んでいていいってことかな。
「仕事が終われば家まで送ってやる。仕事は明後日からだ。ゆっくり休め。」
「わかりました、ありがとうございます。」
何もわからないけれど
何も変わらないけれど
なんとなく もう少しこのまま生きていこう。
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