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呆然と天井を見上げたままため息をついた。
いつからだろう、俺はずっと憧れていただけの人を身近に置き過ぎたらしい。
本の上でしか、画面の向こうでしか知らなかったはずの人なのに。
体をゆっくりと起こしスーツについたホコリを払う。
カバンを持ち部屋を後にするといつも俺が仕事をする小さな部屋へ戻る。
机の上や部屋の端には積み上がったダンボールと大量の封筒。
その一つ一つにあの人への愛が書かれている。
「…俺も、同じだったのに。」
高校生の頃、なんの意味もなく何となく生きていた俺の人生を変えてくれた一冊の本を。
俺の人生を変えてくれたあの人の一言を。
ただただ追っていただけなのに。
いつの間にか本人に辿り着いて、本人よりもっと向こうまで行こうとしている。
どうして?どうしたい?
俺だけのものにしたい?
知らない事がないくらい過去も未来も漁り尽くしてそれで満足する?
「こんな事、したかった訳じゃない。」
床へ置いてあったダンボールを蹴飛ばすと中に入っていた便箋があちこちに飛び散る。
ジンジンと足が痛み、それと同時に涙が溢れてきた。
知らなくていい事まで知ってしまった。
一人の人として愛してしまった。
心まで手に入れたい、どうか俺だけを見ていて欲しい。
俺は あの人を好きになってしまった。
取り返しがつかない事をしたんだ。
もうあの日より前には戻れない。
あの人の記憶から消えても、俺が追う事をやめても。
また、 初めまして と頭を下げても俺はきっとあの人の事を忘れられない。
愛してしまったから。
ねぇ 覚えてますか
初めて出会った時、部屋の隅で蹲っていた貴方が俺の名刺を見て「綺麗な名前だね」と褒めてくれた事を。
覚えてますか
貴方が俺の手料理を食べて「とっても美味しい」と言って笑ってくれた事を。
覚えてますか
初めて出かける時「付いてきてくれるなら安心」だと頼ってくれた事を。
何も出来なかった俺にありがとうと言ってくれた事を。
覚えてますか
初めてキスをした時を、抱きしめた時を、身体を重ねた時を。
貴方にとっては小さな何の意味もないあの瞬間が俺にとってはかけがえのない宝物でした。
貴方が忘れてしまった全てを俺は
俺は ずっと心の底から
「…愛して、ました。」
蹲って知らない誰かの手紙を握りしめた。
もう 貴方を追い詰めたりしないから 苦しめたりしないから。
ただ 遠くで支えさせてください。
ねぇ 覚えてますか?
俺も今 貴方との日々を忘れます。
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