アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
6
-
『間もなく開演です。携帯や電子機器の電源を……』
そんなアナウンスに俺はパンフレットを抱きしめながらじっと舞台の上を見ていた。
あと2分で藍川さんが出てくる。
あと2分で藍川さんが見られる。
「あと2分後に始まるのは案内のアナウンスだぞ。」
「ぅ"、っ…分かってますよ…!」
「にしても、すごい熱気だな。人気の若手俳優、女優のファンだけでもすごいが藍川の人気も足されるとこうなるんだな。」
「有名な役者さんなんですか?」
「お前は本当藍川以外に興味ねぇな…今をトキメク木下と菅だぞ。この映画が大ヒット作になるのは確定だろうな。」
「へぇ……」
そんな話をしているとアナウンスが始まる。
内容は今までのとほとんど同じだ。
俺がもう一度パンフレットを見てると横で吉田さんが小さな声で呟いた。
「…ついこの間まで毎日会ってた奴だろ。そんなに特別か。」
「もう、会えないので。」
俺はそうとしか答えなかった。
そう答えて間もなく、周りから大きな拍手が湧き出ると舞台脇から若い男女と監督らしき男性、それから藍川さんが出てきた。
完成が飛び交いそれに答えるようにそれぞれが手を振ったり会釈をしたりする。
藍川さんもキョロキョロと周りを見回しながら笑顔で両手を振っていた。
司会の進行で1人1人挨拶が始まると藍川さんは興味津々で会場をずっと見回していた。
「続いて、この作品の原作者である藍川さんです!」
その声により一層大きな歓声が映画館に響き渡る。
藍川さんは驚いたように体を跳ねさせるとクスクスと楽しそうに笑った。
「こんにちは、ご紹介頂いた通り藍川です。この作品は僕が活動停止前に書いた最後のお話です。シーンにはあまり盛り上がりがなく淡々と進むストーリーですが、最後にはきっと物語の流れを皆さんに感じてもらえると思います。
ええと、…木下さん、と…菅さん。に演じてもらった二人もきっと原作とはまた違う素敵な雰囲気になってると思いますので皆さんよければ一人100回くらい見て僕等の作品を感じてくださいね。」
と、そこまで言うと笑いに包まれる。
司会者からの100回は多すぎでしょ、というツッコミで更に笑いが起きる中俺もつられて笑ってしまう。
相変わらずな調子だ。
「アイツ、いい笑顔だな。」
「はい。綺麗に笑ってます。」
「…仕事だからな。」
「嘘でも。笑ってる方が、明るく見えますよね。」
「俺もそう思う。」
淡々と進んでいく舞台の上を眺めながら、俺はただの一ファンとしてその人を思っていた。
本当に一ファンとして。
それ以下でも、それ以上でもなく。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
199 / 208