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雑誌の入った袋を廊下に出して、グッと大きく背伸びをする。
掃除を初めて約3時間。
粗方片付いた部屋は前よりもずっと広く感じる。
綺麗なフローリングの部屋はシンプルで、必要最低限のものしかないような気がする。
部屋の片面の壁は本棚がありギッシリと本が収まっている。
本棚の前に立ちじっと見上げる。
ほかの本は有名な作家や俺の知らない作家、偉人の本などが並んでる中で一番右の本棚だけは全て藍川さんの本が入っていた。
「…少年と雪色の夏。」
藍川さんの代表作。
この本で藍川さんは爆発的に人気が出た。
メディアへの露出も増え、本は飛ぶように売れるようになった。
本屋は藍川さん一色になり知らない人はいないくらいに。
波に乗り次々と新しい本が出た。
少年と空色の夢、少年と桜色の旅。
少年シリーズは思春期の少年が様々な困難や苦しみに耐えつつも多くの人を救い元気付ける物語だ。
全てで12巻ある本はそれぞれの月に関する話で、映画化までされた。
他にもシリーズ本やエッセイ、詩集等幅広く活動した藍川さんは"天才作家"と呼ばれ多くの人に愛されてきた。
なのに、そんな藍川さんをメディアは許さなかった。
『天才作家藍川 ゴーストライター疑惑』
それが確か最初の中傷だった。
それから徐々に増えた批判的な記事、それと同時に藍川さんの新作のペースは落ちて今はもう全く書けていない状態だ。
そして 今。
寝不足の原因もコレかもしれない。
美味しいものでも食べてもらって、少しずつ元気になってもらいたい。
もし、話を書けないとしても。
俺はあの人にただ元気なってもらいたい。
「…さて、起こすか。」
ようやく本棚の前から退き、寝室へ向かう。
…寝室も酷い荒れ方なんだろうな。
お風呂に入ってる時にでも…いや、寝室っていじられるの嫌いな人多いからな。
そんなことを考えながら部屋をノックする。
「藍川さん。掃除終わりました。入っていいですか?」
「うん。」
その返事に部屋へ入る。
入って目の前にベッドがあってその上に藍川さんはいた。
横に机がついていて、スライドすると病院のベッドみたいになる仕組みだ。
その机に腕を起き、腕を枕にするみたいにして藍川さんは優しく笑っては俺を見た。
「ごめんね小波くん、大変だったよね。」
「掃除は好きなんで全然。藍川さんは眠れました?」
「…あんまりかな。耳が痛くて。」
「目の次は耳…ですか?」
「そうだね。痛くて痛くて、何も出来なくなる。」
ヘラリと笑って片手で耳を塞ぐと目を閉じ優しい顔をした。
…そうだ。
この人は、よく不思議な話し方をする人だった。
テレビに出た時も1人独特な雰囲気で話すから少し不思議がられていたのを思い出した。
目が痛い、耳が痛い…。
『尖った言葉を書く時はすごく痛いです。痛くて、痛くても…痛い言葉が伝われば皆柔らかくなれると思うんです。』
痛い。
「…小波くん?」
「藍川さん、…痛い言葉は無理に見たり聞かなくてもいいんです。俺が守ります。」
「ぇ、……」
藍川さんの目が見開かれてじっと俺を見た。
いや、俺よりももっと奥を見ているような気もした。
小さな沈黙のあと、見開いたままの目から小さな涙が落ちる。
「…あぁ、……俺、面倒だよ。」
「平気です。守らせてください。」
貴方を守りたいと、守らないと
そう思ったから。
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